アルバイト

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アルバイト

 大学生の僕はこの物流倉庫でアルバイトをしていた。都心から離れた場所にある閑散とした地域に建物がある。僕は夏休みの間、ここで働いていた。大学の夏休みは二か月程あり、他に特にすることもなかった。カートを押しながら、熱気に包まれた倉庫の中を歩き、伝票を確認して、段ボールを載せる。段ボールの中には飲料水のペットボトルが入っていた。トラックの前までそれを運ぶと、ドライバーが荷台に載せる。朝の九時からこの作業をしていて、もうすぐ昼休みになるが、足に疲労を感じていた。  チャイムが鳴ると、昼休憩になった。僕は周りの人と同じように事務所に付いていく。事務所の中は冷房が効いていて涼しかった。僕はこのバイトを夏にしたことを後悔した。ロッカーから、ここに来る前にコンビニで買ったパンを取り出す。席に座り、ペットボトルの水を飲みながらパンを食べた。 「仕事はどう?」と隣に座っていた人に話しかけられた。 「夏にやるもんじゃないですね。冬ならよかったです」 「そっか」  彼はそう言って笑った。年は三十歳くらいだろうか。肌は日に焼けていて褐色で、背は僕より少し低いくらいだった。 「名前は?」 「佐々木です」 「俺は村上。よろしく」  その日から僕と村上さんは知り合いになった。昼休みが終わると仕事に戻る。働くのは大変なことだと今更ながら痛感していた。大学では化学を学んでいたが、アルバイトはその間はせずに、多くの講義に参加していた。せっかく学費を払っているのだから、もったいないと思ったのだ。僕は文系の講義にも顔を出し、哲学や文学を学んでいた。しかし夏休みになると、その間は休みなので働こうと思った。そして夏の間だけ働けるこのアルバイトをしていた。  仕事をしていると、村上さんも同じ階で働いていた。僕らはその日からよく話すようになった。誰か話せる人がいることは重要だと思う。そういう人がいることで仕事へのモチベーションが変わる。  その日の仕事を終えると駅までの道を村上さんと歩いた。辺りは薄暗くなっていて、蝉の鳴き声がしている。村上さんは僕の隣を歩き、自分が料理人をしていると言っていた。 「仕事が空いた時にこのアルバイトをしているんだ」 「そうなんですか」 「自営業は大変だよ。佐々木は大学を卒業したら就職するの?」 「そのつもりです」  村上さんはポケットから煙草を取り出した。近くにコンビニの喫煙所があったので、そこへ行った。
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