花火

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花火

 夜に街灯の光が照らすアスファルトの道を佐々木さんと歩いていた。佐々木さんは職場で出会った先輩で、僕らは親しくなった。佐々木さんの手にはビニール袋があって、その中には花火が入っていた。僕はなんとなく居心地のよさを感じながら隣を歩いていた。 「私には妹がいたんだ」  佐々木さんはそう言うと僕の方を振り向いた。 「そうだったんですか?」 「今はもう亡くなってしまったけどね」  河原に着くと、水が流れているのが見えた。僕らは河原で花火を取り出して火を付けた。バチバチと音がして火花が散らばっていく。佐々木さんの顔をその光は照らしていた。 「どうして亡くなったんですか?」 「心臓の病気だったんだ。」  その目はどこか潤んでいるように見えた。僕は花火から出る火花を見ながら、風の熱を感じていた。  僕らはその日の夜に河原で花火をした。最後に線香花火をして、それが終わると、河原を後にした。  夜道を歩きながら、佐々木さんは鼻歌を歌っていた。  佐々木さんの住んでいるアパートに着くと、僕は部屋に入った。部屋の中はワンルームだったが、清潔感を感じた。  冷蔵庫からビールの缶を取り出して、二人で座って飲んだ。 「妹はさ、大学を病気で休学していて、治る見込みもなかったからさ、将来に悲観的だったんだ」 「そうだったんですか」 「だから、時々私の前で泣くことがあってね。その時、妹の本当の姿を見た気がしたんだ」 「本当の姿ですか?」 「そう。そんなことを考えているなんて知らなかったからさ」  僕らはビールを飲み、コンビニで買ったおつまみを食べた。夜の時間はただ過ぎていく。  その日僕らは朝になるまで話をしていた。誰かとこんな風に話すなんてほとんどないことだった。  目が覚めると、午後の二時だった。ソファで僕はいつの間にか寝ていたようだ。幸い今日は日曜日だった。なんとなく体はだるかったが、佐々木さんと一緒に外に出た。  夏の熱気が辺りを覆いつくしている。汗が体に滲むのを感じた。 「どこに行く?」と佐々木さんは聞いた。 「ファミレスとかは?」 「いいね」  僕らは交差点に面しているファミレスに入り、席に座った。サンドイッチとコーヒーを注文した。しばらくするとサンドイッチとコーヒーが運ばれてきた。  サンドイッチはおいしかったし、コーヒーもまずくはない。窓の外は日差しが街を照らしている。僕はぼんやりと外の光景を見ていた。その時、ずっと忘れていた懐かしい感覚がした。
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