夏の会

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夏の会

 その日の仕事を終えると、夕暮れの街の中を歩いていた。遠くに太陽があって、ちょうど沈んでいこうとしている。熱気を帯びた空気が風に吹かれて通過していく。僕はなんだか懐かしい気持ちになって、アスファルトの坂を上っていた。  職場の大学から歩いて十五分程のところに、僕と彼女が住んでいるマンションがある。僕も彼女も同じ大学に勤めていて、僕は助教で彼女は研究員だった。僕らは大学で出会い、そのまま結婚した。  マンションに着くとポストを確認した。すると一枚のチラシがあるのを見た。表紙には「夏の会」と書いてあった。住所が記されていて、ここから電車で三駅程のところにある。僕はチラシを眺めながら、エレベーターに乗った。  部屋のドアを開けると、誰もいなかった。彼女はまだ研究をしているのかもしれない。僕はチラシをテーブルの上に置き、料理を始めた。野菜を切り、肉と一緒に炒め、水を入れる。少し煮たらカレーのルウを加えた。パックのご飯をレンジで温めている時に、彼女が帰ってきた。 「おかえり」と僕は言った。 「今日は早かったんだね」 「夏休みだからね。学生は休みを取っている人が多いから」  僕はカレーを皿によそい、テーブルの上に置いた。彼女と向き合って座っていると、出会った頃のことを思い出した。  彼女はチラシに気づき、手に取って眺めていた。 「何これ?」と彼女は言った。 「ポストに入っていたんだ」 「宗教の勧誘かな?」 「その可能性もあるね」  僕は食事を終えると、シャワーを浴びることにした。風呂場でシャワーを浴びている時、チラシの会に行ってみようと思った。理由はわからないが、何かがあるような気がした。  その日は彼女とゲームをして遊んだ。明日は休日だったので、遅くまで起きていることができた。缶の酒を飲みながら、対戦ゲームをやっていると、懐かしい気持ちになった。  十二時になった頃に眠ることにした。僕らは寝室に行き、ベッドに横になった。天井を眺めていると、過去のことを思い出した。僕らは当時大学院生で同じ研究室だった。すぐに意気投合した僕らは付き合うことになった。  朝目覚めると鳥の鳴き声が聞こえる。隣ではまだ彼女が寝ていた。僕はゆっくりとベッドから降りて、寝室を出た。キッチンでコーヒーを淹れながら、部屋の中を見ていた。デジタル時計の数字は七時十五分を示している。なんだか最近は早く起きることが増えたと思った。チラシの会は今日やっているはずだ。
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