午後

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午後

 電車に揺られながら、ぼんやりと窓の外の風景を眺めていると、電車が停止してドアが開いた。数人が降りて、人が入れ替わり、また電車は動き始めた。手に持った「夏の会」というタイトルのチラシを眺めながら、いったいこの会は何をしているのだろうと思った。  休日の午後の日差しは少し穏やかで、八月にしては外の大気は涼しかった。電車が駅に着くと、僕は立ち上がり降りた。  階段を降りて、改札を抜けると、商店街だった。夏の会は歩いて五分程の場所にあるらしい。僕は商店街を抜けて、駅の近くの道を歩いていた。木々が風に揺れている。夏の日光が葉を深い緑色に照らしていた。目的地に着くと、そこは路地裏の小さなビルだった。階段を上って三階に着くと、ドアがあったので、手で押して開けた。  中は白い壁紙の部屋になっていて、十人程の男女が床に座っている。 「こんにちは。初めての方ですか?」  四十歳くらいに見える女性が僕の方へやってきて声を掛けた。 「チラシを見て来ました」 「そうだったんですね。主催者の渡辺です。そこに座っていてください。もうすぐ始まります」  僕はマットが敷いてある後ろの方に座った。周りにいる人たちは静かに話をしていた。なんとなく暗い雰囲気がしたが、これから何が始まるのか少し期待していた。  渡辺さんはやかんのお湯を紙コップに注いでいる。僕はその様子をただ眺めていた。お湯が注がれた紙コップを他の人が配り始めた。僕もそれを受け取った。 「それでは始めましょうか。コップの中身を飲んでください」  僕は透明なお湯を飲んだ。中身は少し苦い。今まで飲んだことのないものだった。  しばらくすると、頭がぼんやりとしてきた。部屋の電気が消されて、参加者は床に横になった。僕も仰向けにマットの上に寝た。天井を眺めていたが、段々と近づいてくるように見えた。その時、自分は結構危ないものに手を出してしまったと思った。しかし、徐々に気持ちが楽になってリラックスしていることに気づく。皆で床に寝ながら、こうして過ごしていると安心できるような気がした。  一時間程で、感覚が元に戻っていた。起き上がると、隣に渡辺さんがいた。 「お名前を聞いてなかったですね」 「佐々木です」 「佐々木さん。気分はどうですか?」  僕はそう聞かれて、自分の心境がよくなっていることに気が付いた。 「楽になりました。いったい何を飲んだのですか?」 「安心してください。合法なものです。ただこれはあまり知られていないからなんですけどね」  渡辺さんはそう言って笑った。
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