幽霊

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幽霊

 街灯の明かりが、アスファルトの一本道を等間隔に照らしていた。風が吹くたびに熱気を感じる。空には丸い月が浮かび、星がまばらに輝いていた。大学での仕事を終え、帰り道を歩いていたのだが、ふいに山に行きたくなった。夜のこの時間から山に行く人はいないだろう。でも僕はその山に数回上ったことがあり、ある程度道は把握していた。どうしてこんな夜に山に行きたくなったのか自分でも理由はわからない。ただ山に行けば何かが変わるような気がした。  大学の研究室で教授に呼ばれ、今日の午後、話をした。内容は次の就職先についてだった。大学院の博士課程を終えて、今の研究室で研究員をしている。二年勤めてきたが、最近いいデータが見つかって、論文にできそうだった。教授はその後の就職先について話をした。 「私が若い頃は自分が研究者になるなんて思っていなかった。でも自分でもよくわからないが、成果を出すことができた。君はどうするの? このまま大学にいるつもり?」 「まだ決めてないですが、今回の成果が論文になったら製薬会社の研究員を目指してみようと思っています。それが無理だったら、どこかで助教で雇ってくれるところを探します」  教授と僕はそんな話をした。夜道を歩きながら、今日話したことを思い出し、気が付くと、家のドアを開けていた。僕は電気をつけて出掛ける準備をした。リュックサックの中に水や懐中電灯を入れて、服を着替えた。すぐに僕は家を出て、山に向かった。  歩いて十五分程のところに登山ができる山がある。もちろん今の時間は誰もいない。僕は懐中電灯で道を照らしながら歩いて行った。  夜道はなんだか怖さを感じた。熊が出ないか少し不安だった。周りの木々を見るとカブトムシがいることに気が付く。  本当だったらもう結婚してもいい年齢だったが、今のところその予定はない。子供がいたら一緒にここでカブトムシやクワガタを取ることができると思った。  しばらくの間、暗い坂道を登って行った。一時間ほど歩いたところで休憩をすることにした。すると懐中電灯で照らした先に一人の女性がいた。  幽霊だと思った。心臓が激しく鼓動する。女性は僕の方へ近づいてくる。僕は殺されるのではないかと思った。 「こんばんは」と彼女は言った。  しばらくの沈黙の後、僕も「こんばんは」と言った。 「こんな時間に珍しいですね」  彼女はそう言うと笑みを浮かべた。顔を見るとなかなか整っていて魅力的だった。
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