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私の家がなんであるかを知っているのは琳子さんだけ。けれど私が普通のお金持ちではないことは、他の誰もが察していることだと思う。工藤たちの容姿を見れば、噂もたつだろう。
それでなくても毎朝、門から校舎まで黒服にストーカーされているし、それを打ち消すために自分の存在感を振りまいている。
この学校に私の居場所があるのは、私の努力の賜物と、琳子さんが物怖じせずに私に話しかけてくれるからだ。
だというのに工藤は私の苦労を水の泡にするように、放課後になって私を迎えに来た。
工藤に見つかる前にこっそり学校を出てやろうと思ったのに、門を出た瞬間に見慣れた黒い車が滑り込んできた。
「まぁ、工藤様ってばまるで超能力者のようですわね!」
隣に立っていた琳子さんが頬を赤らめて小声で呟く。
超能力者なものですか。工藤に限ってそんなこと……。
「お迎えに上がりました、お嬢。琳子さんも乗って行かれますか? ご自宅まで送りますよ」
「あら、本当ですの? で、ではお言葉に甘えてもよろしいですか? 弥代さんもよろしいでしょうか?」
「……」
私は1つの可能性を考えることに必死で、琳子さんの言葉を聞きのがしてしまった。
「弥代さん?」
「お嬢、どうかしましたか?」
「……え? あ、いえ、どうもしませんわ。えぇと、何の話でしょうか?」
私は慌てて笑顔を取り繕い、琳子さんに訊ねた。
「工藤様が一緒に乗っていきますか、とお誘いしてくださったのですけど……。弥代さん、ご気分が優れないのでしたら、すぐにご帰宅された方がよろしいですわ!」
「い、いえ、ただちょっと考え事をしていただけですわ。お、おほほほほ」
嘘はついていないのに、何故か嘘をついてしまったかのような後ろめたさを感じ、あからさまに誤魔化すような笑い方をしてしまった。
これでは体調が悪いことを隠しているみたいだ。
「弥代さん、無理は禁物ですわ! さぁさぁ、お車に乗ってくださいませ!」
それみたことか。
私の態度を怪しんだ琳子さんが強引に私の背を押して車に押し込んだ。
「わたくしのことは問題ありません。工藤様、弥代さんのことをお願いいたしますわ!」
こういう時、琳子さんは自分の恋より友情を優先できる人なのだ。
なんていい人……。と思っているのも束の間、工藤は琳子さんに頷いて車を発進させた。
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