4人が本棚に入れています
本棚に追加
✱
葉乃ちゃんは不思議な子だった。
高校に入り、同じクラスになり知り合ったのだけれど、初めて彼女を見た時ハッとした。
あまりにも綺麗な、というか、可愛らしい子だったからだ。
天然の栗色の髪、吸い込まれそうな白い肌、ぐりぐりとした大きなセピア色の瞳、整った鼻、小さい唇、細い手足。
お人形さんが実物化したような姿だった。
寸分狂いの無い外見なのに、だけど彼女はどこか変わっていた。
誰かとつるむわけではなく、どこかのグループに属するわけでもなく、いつも独りでいた。
しかし、女子高特有のイジメに遭っていたとか、シカトされていたとかではない。
自分から皆によく話しかけるし、話しかけられた相手も嫌な顔をするわけでもなく、会話する。
彼女はあくまでもマイペースだった。
授業中もノートをとらず、先生の話も聞かず、机の上に本を置いて堂々と読んでいた。
本、というか、図鑑。しかも子どもが読むような字も絵も大きな図鑑だ。
初めの頃は、数学の時間にきのこの図鑑を開いていた。
しばらくするときのこブームは去ったのか、1時限の現代文から6時限目の家庭科の授業までずっと、国旗の図鑑を読んでいた。
初夏になるとそれは”家庭の医学“の本になった。
それでも彼女はなぜか成績はよく、春休み明けの確認テストでも、時たまある抜き打ちテストでも、漢字テストも難なくこなしていた。
“クラスで一番の点数よ”と英語の小テスト返却時に、若い女性教諭が彼女にこっそり声をかけたのを、私は耳にした。
だからなのか、葉乃ちゃんが授業中に教科書を開かずに好きな本を読んでいても、教師は見逃してやっているみたいだ。
――もっとも、この学校はバカではないけれど、大してお利口でもない高校で、ある程度の点数を保っていればエスカレーター式で付属の短大に上がれるのだ。
そのせいか、学校自体がゆったりとした雰囲気に包まれていた。
最初のコメントを投稿しよう!