夏夜物語

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✱    案の定、それから私は熱を出した。  私は何故か定期的に熱を出す。 しかも高熱。  ベッドから動けない、食欲もない。  それでも母が病院に行けと煩いので、何とか着替えて、それでも汗臭い身体を引きずって、家の近所の個人病院に這って行く。  親は手助けなどしてくれないから、ふらつきながらも自力で行くしかない。  母は私の身体の心配ではなく、介抱の煩わしさから早く治せと言うのだ。  個人病院の先生はベテランのじいちゃんで、禿げていて耳の上に味付け海苔のような髪の毛が貼りついているだけだ。  馬面で、鼻毛が出ていて、そんなじいちゃんだけれど、白衣を着ていると威厳というものが出てくるから面白いなあと毎回思う。 「あ、また熱出たの」  と、すっかり常連の私は、来院しただけでじいちゃんにそう言われるようになった。  首筋のリンパを丁寧に調べてくれ、聴診器も丁寧、血圧を測るのにベッドに横にされ、そのまま採血。  解熱剤もらうだけでいいのにな、と、毎回思うけれど、じいちゃんはいつも真剣に向き合ってくれる。  毎回結論はでない。原因不明熱。  どの数値も正常。血中のアレルギーの反応などもなし。  藪医者ではないようだ。  5人掛け×5列の待合室の皮張りのソファは、いつもそれなりの患者さんで埋まっている。  それに、待合室にかかっているじいちゃんの経緯を示す掲示には、県下一の有名な大学出身であることが書いてあるし、○○病院名誉提携医師、との張り紙もある。  腕は確かだと思う。  いけないのはこんな訳の解らない熱を出す私自身なのだ。  結局今回も原因不明熱で経過観察ということで、薬局で薬を貰ってずるずると身体を引きずりながら帰宅した。  ベッドに入り、ほっとする。  熱がある時に外に出るのは、ほんと、体力消耗する。余計に熱が上がりそうだ。  しばらくしたら薬を飲もう。  私は動いた身体を休める為に、そっと目を閉じた。  中間考査後の熱発でよかった。彼女の言う通りだ。  テスト中に休んだりしたら、夏休みに再テストだ。  しかも、赤点だった生徒の講習を一緒に受けてからのテスト。  冗談じゃない、せっかくの夏休みに学校なんて行ってられない。  少しまどろんだところで、階下から母の声が飛んでくる。 「お薬飲む前に何か食べなきゃいけないんでしょー。おかゆ? うどん?」  半ば苛ついている声だ。 「コンビニでサンドイッチ買ってきた!」  私はドアに向かってできるだけ大きな声を出した。ちょっと頭がくらっとした。  母は料理もあまり好きではない。自分で何とか賄おうと、帰りにコンビニに寄ってきたのだ。 「あっそう」  ……素っ気ない……。  落胆はしない。もう母のことは慣れっこだ。
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