夏夜物語

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 初めて声をかけられて、私は少し戸惑って、そして少し嬉しかった。  そんなこんなで、初めて会う人の、見ず知らずのご先祖様のお墓参りをすることになった。  ロウソクもお線香もない。ただ墓前で皆、手を合わせただけだった。  夜中に突然、6人もの訪問に、奏くんのご先祖様はさぞかし驚いたことだろう。  楽しかった。  深夜のお墓参りが楽しかったなんて不謹慎だけれど、本当に楽しかった。  だから、ドライブも終わり、深夜と早朝の間に、水森町のコンビニで解散する時は淋しさを覚えた。  なので、スマホで写真ばかり撮っていた透波くんに、つぶやきサイトの友だち申請していいかと言われたのも、煙草女子桔咲さんがLINE交換しとこうかと言ってくれたのも嬉しかった。とても。  ちなみに葉乃ちゃんは携帯を持っていないらしく、連絡を取る時は母親のスマホか、自宅の電話だということには少々驚いた。と、同時にそんなところも軽やかに生きている彼女らしいと思った。  その代わりに、財布に入っていたレシートの裏に、私のTEL番を書いて彼女に渡した。  運転手の九条さんと助手席に乗っていた奏くんは、そのまま走り去った。  桔咲さんは朝までやっているバーに入ると言い、透波くんは帰ってすぐ寝ると言い、葉乃ちゃんはただ“じゃーね!”と手を振り帰って行った。  しろくま、おいしかったぁ、と私に笑みを残してくれた。その笑顔もびっくりするくらい早朝の空気に映えて私はどきっとした。  朝早いカラスが鳴いていて、じきにスズメの鳴き声がし、愉快な仲間との夜の魔法時間は解けたのだ。
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