夏夜物語

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✱  地下鉄の始発に乗り家に帰った。  玄関の鍵が閉まっていたので、合鍵で開け、そっと家に入る。中は静かだ。  靴を脱ぎ、右手にあるリビングへ行く。誰も起きていない。   そのまま右奥に進むと、右手の父の部屋からは、微かにつけっぱなしのラジオからクラシック音楽が流れていた。その対面の母の部屋からは豪快なイビキが聞こえた。  誰も私を、家族でさえ私を心配していない。  ハジメテノアサガエリだというにも関わらず。  怒られることはない、ということが解ると、私は急に空腹を感じてキッチンでお湯を沸かし、戸棚から大量にストックしてあるカップラーメンからどん兵衛を取り出し、割り箸を持って二階の自室へと階段を上がった。 (カップラを食べる時は割り箸を使えと母に言われている。使った箸だけ残されても洗うのが面倒だと言われるのだ。)  自分の部屋に入ると、ベッドを背もたれにしてカップうどんをズルズルと啜りながら、昨夜からのことをぼんやり思い出していた。  まるで夢のような一夜だった。知らない人、知らない車、知らない墓地。  夢のように楽しかった。  うどんを食べ終えると同時に、とろとろと眠気が襲ってきた。  私はお風呂にも入らず、歯も磨かずにそのままベッドにダイブした。
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