夏夜物語

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 次に目を覚ましたのは、壁掛け時計が午後の真ん中を指していた。  誰も起こしに来ないし、誰も心配している様子もない。  それでも母の様子を窺うために一度階下へ向かう。  リビングからは大音量のテレビのワイドショーの声が聞こえてくる。  私は小さいすりガラスが6つ埋められているドアを開け、そろり、と中に入った。  それでも母は私に気づく様子もないので、わざと大きな音を立てて後ろ手で扉を閉めた。  ソファーに寝転んで、肘枕をしていた母がようやく私を見る。彼女の目は赤い。  ソファーの傍にあるテーブルの上には、食べ終えたカップラの残骸と、お菓子の屑で散らかっている。  散らかっているのはテーブルの上だけではない。部屋全体に、いや、家全体に埃が溜まっており、洗面所やお風呂場はピンクやら緑やら黒やらのカビだらけだ。  母は家事が好きではないのだ。好き嫌いではないのかもしれない。できないのだ。  私としては単に怠けているとしか思えないけれど、彼女はあれこれ通院している。  そして大量の薬を服薬している。  本人が“うつ病”などと言っているのだから、まあそうなのか。 「お昼ならカップラ食べて。インスタントラーメンなら自分で作って。コンビニ弁当でもいいけど、高いから自分のお金から出してよ」  母はそう言うと、テレビ画面に目を戻した。  お昼ご飯の話をしたのは、私が今日から夏休みだということを知っていたからか、それとも今日はたまたま土曜日だったからなのか。  私が朝帰りしたことについて言及しなかった。  気づいていない可能性もある。  だって母は、夜はお酒を飲んでフラフラで、その上睡眠導入剤を飲んで倒れるように眠る人だから。
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