夏夜物語

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 起床したのも今さっきだろう。いつも一日14時間ぐらい眠っている。  朝はいつも、私は食パンと牛乳。  父は、母が辛うじて炊いていた炊飯器のお米と、インスタント味噌汁、納豆生タマゴでこと足りている。  父の帰りは遅い。彼も私が昨夜いなかったことに気づいていないと思う。  自分の部屋にずっといたのだと認識しているだろう。  こんな父母。こんな生活が当たり前だ。  私は学校でも、家でも、いてもいなくてもいい存在なのだ。  「――昨日はどこに行ってたの?」  相変わらずテレビに目を向けたままの母から、思いがけない言葉が飛んできた。  なんだ……知ってたの、朝帰り。  私は途端に背筋が伸びた。  別に悪いことをしてきたわけじゃないけれど。 「え、と、友だち皆と……車で……」 「せっかく晩ご飯作ったのに」  母はキッチンドランカーでもある。  飲むと料理が捗るらしい。  酔って変なテンションになって、真夜中に大掃除を始めたりすることもある。  他の家事は適当でも、晩ご飯だけはいつも作ってくれていた。  そして、私が黙々と食べる横で、彼女はまたもガバガバと酒を飲む。  毎晩飲み過ぎてそのまま眠り込む母。父は深夜に帰宅して、作り置きをひとりで温めて、ご飯を食べる。 「いなくなるのはいいんだけど、夕飯ぐらいは食べてから行ってよね」  叱られているのだか、赦されているのだか、微妙な言い草。  母はハッピーターンをポキポキと齧りながら言った。 「あと、妊娠だけはやめてよね。めんどくさいから」  そういう人たちとのつき合いではないのだけれども、私は小さく頷いた。
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