夏夜物語

21/28
前へ
/28ページ
次へ
 ✱  その日も実は密かに水森町のセブンに繰り出そうと思っていた。  誰かがいてもいなくても。  だけど、母が気にかけてくれていたという事実がちょっぴり嬉しくて、今日は家で大人しくしていようと決めた。  昨日入らなかったので、夕方早々にゆっくりとお風呂に入った。 (お風呂洗いは私の役目だ。酔っていない時の母は基本的に家事を一切しない。)  1時間ほどお湯に浸かって、上がった頃にはキッチンから大音量のスマホ動画の番組が流れていた。   ひとり飲みをしながら、つらつらと話をしているユーチューバーを母は好む。  キッチンを覗いてみると、案の定、缶から直で母はビールをかっくらい、野菜を切り、また飲んでは鍋に火をかけている。  酔いながら料理なんて、危なくないのかなぁと見る度にヒヤヒヤするけれど、彼女の手はてきぱきと動いている。  エプロンを着けずとも、母の服はいつも汚れることはない。  そういうところは少し感心してしまう。 「カレーとシチューと肉じゃが、何がいいの?」 ――どれも同じ材料で、味付けが違うだけじゃないかと苦笑してしまう。 「……カレー」  今日も暑かった。クーラーもつけずにずっと眠っていた上に、お風呂上りで増々暑くなっていたから、エナジー補充だと思って、私はスッと答えていた。 「解った」  彼女は頷くと、またお酒を煽った。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加