夏夜物語

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「おっちゃんはいないの?」  葉乃ちゃんはそう聞きながら、彼にアイスを渡した。 「今日は病んでる。メンヘラ系の他人のつぶやき、リポストばかりしてる。自分からは発しないけど」  おっちゃんと呼ばれた人も、仲間なのだろう。  おっちゃんというくらいだから、やはりおじさんなのか。 「あの……皆さん、どういうお知り合いですか?」  おずおずと尋ねてみた。  すると桔咲さんは煙草の煙をふー、と吐いて、手持ちの鞄からちいさなピンクの箱を出して見せた。 「この煙草、このコンビニでしか売ってないから。よくここに来るようになって、葉乃たちと知り合ったの」  にこっと笑う彼女の零れた歯が、リスみたいで可愛らしい。 「俺は葉乃がよくここに現れるから。アイス買いに。葉乃とは中学の同級生なんだ」  パシャパシャパシャと、連続で白くまの写真を撮りながら、透波くんが答えてくれた。 「ねえ、とーちゃん、食べたいんだけど」 「ああ、ごめんごめん」  葉乃ちゃんの催促に、彼はアイスを返す。  そして葉乃ちゃんは、いただきまあす、とカップの蓋を開け、もらった木べらで白くまをすくう。  ひと口、口に入れると、彼女は夜空を仰いで言った。 「あー、どっかドライブしたい」  また、唐突な発言。自分の欲求や感じたことをすぐ口にする子だ。 「九条呼ぶぅ?」  桔咲さんが灰皿の上で煙草を揉み消し、煙と一緒に言葉を吐き出した。  まだまだ仲間はいるのか。 「エルグランド! 天窓つき!」  葉乃ちゃんが目をきらきらさせた。夜に浮かぶ星の瞬きのように。 「あいつ、吹奏楽のコンクール近いから来るかなー。練習でヘトヘトなんじゃないか?」
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