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“S駅、来れるか”
メッセージ機能というものを、彼なりに使ってみたのだろう。やはり機械音痴だというのが文字から見て取れる。どこか微笑ましくて、また誘ってくれたことが弱っていた心体にう優しく響いた。
“ごめん。体調悪い”
申し訳ないと思いつつもそう打った。するとややあって、今度はコール音がした。奏くんだ。
「……はい……」
『何だ、本当に具合悪そうだな』
「熱出た」
『何度』
「まだ39度台」
『家どこ』
「え?」
『住所』
「何で?」
『行くから』
「具合悪くて会えないって。家に親もいるし」
『住所』
答えないといつまでも電話を切りそうにない。私は会話をするのもしんどくて、連絡くれたのは嬉しかったけれど、正直すぐに終わらせてしまいたかった。
「……青葉区の、三条内科っていう病院の、5件先の赤い屋根」
『解った』
プツッと、いきなり電話が終わった。そんなところももう慣れた。
少し会話をしただけで体力を奪われたので、また寝入ってしまった。
どれくらいの時間が経ったのか、また呼び出し音で目覚めた。
『家の前いる』
「ああ……いま、いく……」
スウェット姿だけど、着替える気力もない。
私は身体を引きずって、倒れてしまわないようにそろそろと階段を降り、玄関を出た。
母に見られるのは嫌だった。詮索されるのも、夜中にもう出歩くなと言われるのも……まあ、あの母だったらそんな心配しないか。病床の娘の介抱でさえやらない人間だ。
奏くんは門の前で突っ立っていた。いつものポーカーフェイス。
私の姿が見えると、ずかずかと近寄ってくる。
私が門の閂を引こうとすると、それを手で制し、彼はコンビニの袋を差し出した。
「あ、りがとう」
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