黒と白

1/1

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

黒と白

この世界では、魔力が何よりも重要視されていた。 その昔、偉大なる勇者、アレクサンデルの 魔法によって魔物から世界は守られた。 その功績は街のあちらこちらに残されている。 勇者アレクサンデルの銅像。 勇者アレクサンデルの残した剣を保管している教会。 勇者アレクサンデルが戦った地。 それほどまでに勇者は神聖視されていた。 だから魔力を持つ者は 奇跡を起こすと云われ、白の勇者と呼ばれる。 魔力を持たない者は差別され、黒と呼ばれていた。 白の勇者である子爵令嬢、 レイチェルはため息をついた。 「黒と白の世界は美しいの?」 「まあ、お嬢様っ、なんてことを。 人に聞かれたらどうするのですか」 侍女のマーサは慌てて、閉まっている扉を見た。 マーサは魔力を持たない黒である。 故にマーサは黒であることを隠すため、 魔力持ちの特徴である 首の白い星印を自ら描いていた。 このアレクサンデル王国では、 白い勇者たちの純粋な血を繋ぐために、 黒は処刑される運命にあった。 だから、マーサは必死に隠しているのだった。 「マーサ、あなただって思うでしょう。 白い勇者の血を繋ぐために黒…いいえ、 魔力を持っていない何の罪もない人々を殺すなんて 馬鹿げてるって。…私のお母様も殺されたわ…」 「お嬢様…」 まだ十五歳の主人が 悲しみ長いまつ毛を伏せているのを見ると 胸が痛んだ。 「……本当は、間違っているって思います…。 けど、私は信じてるんです。 いつかこの世界を変えてくれる 本当の勇者が現れてくれると。 そうなればどれほど良いことか。」 マーサの弟妹は全員、黒だった。 両親と自分以外みんな殺されていた。 その事情を知っているからこそ、 レイチェルはより一層悲しくなった。 「えぇ、きっと、きっと現れるわ」 マーサの手を包み込むと彼女の瞳から涙が溢れ出た。 しかし、数日後レイチェルは 打ちのめされることになる。 マーサが処刑されたのだ。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加