思いを継ぐ

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思いを継ぐ

その知らせを聞いたとき、 レイチェルは卒倒しそうになった。 なんですって? 今なんと言ったの? マーサが死んだ? 「何かの間違いでしょう?」 「いいえ。マーサは…殺されました」 メイドが悔しそうに スカートの裾をギュッと握りしめる。 そんな。 昨日までマーサは生きていたのに。 現実味がなかった。 レイチェルはマーサの墓に赴いたとき 初めて涙を流した。 「マーサ、本当に死んでしまったのね」 マーサとは友達のような関係だった。 侍女と主人という間柄でも 確かにそこに絆はあったのだ。 憎い。 私からマーサを奪った国が、世界が。 「マーサ、私が勇者になる。 私があなたの思いを継ぐわ」 まずレイチェルはアレクサンデル王国の黒を 保護することにした。怪しまれないように使用人として働いてもらうことにする。子爵家程度では5、6人 しか雇えなかったが、 1人でも多くの人々を救うためだ。 そして、 レイチェルの魔法で首に消えない白い星を刻む。 さすがに高魔力を持つレイチェルの魔法でも 完全な白色にするのは難しかった。 だが、ないよりはマシだ。 父である子爵とも協力し、 黒を保護し守るための施設を作り、 誰にも見つからないように結界を施した。 子供たちから涙を流し、感謝された。 まだ、こんなに小さな子でも 毎日処刑に怯えて暮らしているのだと思うと 王国に対する不信感がますます募った。 そして悲しかった。 ここまで3年の月日が流れた。 黒の生存率は以前より増している。 子どもも増えた。 しかし最近王国が怪しんでいるようだ。 レイチェルは捕まることも覚悟していた。 親友の死を無駄にはしない。 私が処刑されてもいい。 その前に、この黒と白の世界は 美しいのかを問うことができれば。
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