諦めない

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諦めない

ある朝、レイチェルは2度目の 絶望を味わうことになる。 部屋には血が飛び散り、 メイドのリサが苦悶の表情で倒れていたのだ。 リサは黒だった。 3年前に保護したスラムの少女だ。 「嘘。嘘よね、リサ」 体を揺らすも反応がない。 レイチェルの瞳に涙が溜まっていく。 「嘘じゃないよ、お嬢様」 背後から突然声を掛けられレイチェルは 勢いよく振り返った。 「あなたは誰っ」 「俺は、処刑人だよ。お嬢様、 あなたは黒を保護していた。そうですね?」 「……えぇ、そうよ。魔力を持たない人々を無差別に殺す国から守って何が悪いの?」 レイチェルは処刑人と名乗る男を睨みつけた。 「ハハハッ」 「何がおかしいの!」 「残念なことにお嬢様、 屋敷の中の黒は全員殺した。」 レイチェルの血の気が引いた。 「ぜん…いん?」 「あぁ。あなたは守ると 言いながらも何も守れなかったようだな」 自分の無力さに項垂れる。 私は…勇者になるとあの日誓ったのに 屋敷の使用人さえ守れないのね。 「殺しなさいよ、お父様も殺したのでしょう? なら、とっとと私も殺しなさいよ!!」 悲鳴に近い声で叫ぶ。 もう、疲れた。 マーサと同じところに行きたかった。 「殺さないよ。お嬢様と子爵は教会に送られる」 「なんですって?」 レイチェルと父は白い勇者の血筋を 絶やさないために殺さない。 教会にて聖女、聖人として 生涯を過ごしてもらうのだという。 聖者となれば注目される立場。 気軽に黒を保護した施設にも行くことはできない。 牢に入れたら子孫繁栄ができない。 だから教会に入れることにしたのだろう。 そんな。 レイチェルは歯軋りした。 死ぬことも許されないなんて。 いいえ、これは好機よ。 私は最後まで諦めない。 教会に向かう道中、レイチェルは 魔法鳥(まほうちょう)に言葉を吹きこんだ。 「ソレイス殿下、 あなたなら分かってくれるはずです。 黒と白の世界は間違っている。 お願いします。この世界から、 いいえこの国からでもいい。どうか黒と白という 言葉を無くしてください。 差別を、処刑を、終わらせてください。 私のこの願いをあなたに託します。」 言葉を吹き込まれた魔法鳥は綺麗な紫色となり 青空に吸い込まれていく。 ソレイスはこの国の第二王子で 誰よりも情に厚いという噂だった。 レイチェルは何度か垣間見ただけだったが 優しそうな人物だったのを記憶していた。 殿下、どうかお願いします。
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