4 本職悪役ヒロインは王宮へ

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 今から二十年前、なかなか子宝に恵まれなかった王妃は、その水を口にすれば必ず子が授かるという噂のある森の泉へ出かけた。  泉の持ち主である森の魔女ホーデリーフェは、王妃の前に姿を現すと、水を飲ませる代わりにあることを要求した。 「もう、森でのつましい暮らしにも飽きた。わたしも金や権力を手にして、好き勝手に振る舞い生きてみたい。だから、もしおまえが泉の水を飲んで王子を産んだなら、わたしを王子の婚約者にしろ! そして、王子が二十歳になったら王位を譲り、わたしをこの国の王妃として城へ迎えよ。おまえが産んだのが王女なら、そのまま育てて誰と結婚させてもかまわないことにしよう。子どもは必ず授かるはずだ。確率は二分の一。悪くない話であろう?」  王妃は悩んだ。相手は魔女だ。魔女の申し出など、信じられるものではない。  だが、どうしても我が子をその腕に抱きたかった王妃は、魔女の言葉に従うことを選んだ。 「わかりました。本当にこどもを授かることができるのなら、あなたの申し出を受け入れましょう!」 「フフフ、賢明な判断だ。約束を違えようとか、わたしを出し抜こうとかゆめゆめ考えるでないぞ。そのようなことをすれば、例え跡継ぎを得ても王国は滅びることになる!」  王妃は、ホーデリーフェと約束を交わし、泉の水を口にした。  城へ戻ってしばらくすると、王妃の懐妊が明らかになった。  国王夫妻は、大いに喜び神に王女の誕生を祈った。だが、生まれてきたのは王子だった。  王子が生まれた晩に、ホーデリーフェは王宮へやって来て、約束通り王子との婚約を迫った。  そのとき、そこで彼女を待ち受けていたのが、魔道士侯爵と呼ばれるエヴァン・バーリス侯爵だった。  王国の魔道士会の頂点に立つエヴァン・バーリスは、王妃とホーデリーフェが約束を交わしたことを知り、王子を守るためホーデリーフェに打ち勝つ策を練っていた。  だが、絶大な魔力を持つ魔女に魔法で勝つことは難しかった。  そこで伯爵は、神に祈願し自分の魔力をすべて神に捧げることで、神の力による祝福を得ることにした。  王子を抱き上げ、その額へ婚約の印のキスを送ろうとしたホーデリーフェに向かって、伯爵は言った。   「ホーデリーフェよ、婚約は甘んじて受け入れよう! だが、二十歳の誕生日の宴で、神から祝福されたデリック王子は『真実の愛』に目覚めおまえとの婚約を破棄する! おまえは決して王子と結婚することはできない!」 「魔道士伯爵よ、わたしの魔法を打ち消すため、己の魔力を捧げて神の祝福を得るとは見上げたものよ! 良かろう、その挑戦受けてやろう! だがな、王子を『真実の愛』に目覚めるさせるのは、たくさんの若い男を誘惑し、次々と婚約者から奪い取る希代の悪女としよう! 魔女と悪女、どちらを王妃にするべきかよく考えてみることだ!」  ホーデリーフェは、そう叫ぶと王子の額にキスをして、婚約の印である痣を残し去って行った。  国王夫妻はもちろん、魔力を失ったバーリス伯爵も、魔女の呪縛によってその暴挙をただ見守るしかなかった。    そして、二十年の歳月が流れ、約束の日がやって来たのだった――。  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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