5 指輪が転がるその先に

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5 指輪が転がるその先に

 デリック王子は、ホーデリーフェの手を勢いよくはねのけると、必死で震えを押さえながら叫んだ。  「アナベラ! ここへ!」  王子の呼びかけに応えるように、ローナは王子の元へ走り寄った。  王子は、ローナを抱き寄せると、ホーデリーフェに向かって高らかに宣言した。 「我が婚約者、ホーデリーフェよ! わたしは、おまえとの婚約を解消する! わたしは、今や『真実の愛』を見つけたのだ! ここにいるアナベラこそ、わたしの妻となる人だ! おまえの魔力が本物なら、彼女が条件を満たした人物であることがわかるだろう!」  ホーデリーフェは、フードの陰から灰色の瞳を煌めかせ、ローナを値踏みした。  いかにも男を夢中にさせそうなピンク・ブロンドをなびかせ、蠱惑的な青い瞳をきらめかせる絶世の美女――。  彼女がたどった人生が、映し絵のように魔女の目の前に浮かび上がった。  劇場で、夜会で、庭園で、男たちは彼女を抱き寄せ婚約者に別れを告げる。  泣き崩れる婚約者たち。高らかに勝利宣言をする美女――。   「むむむっ! この女、ピンク・ブロンドと青い瞳を武器に、数々の男に『真実の愛』を語らせ、婚約や結婚を解消させてきた悪女に間違いないようだ! よくぞ、魔物のような女を見つけてきたものだ! こんな女が本当にいたとはな!」  悔しそうに歯噛みするホーデリーフェに向かって、ローナは力を込めて叫んだ。 「森の魔女・ホーデリーフェ! 王子様は、わたくしのものですわ! 年老いて、暗く湿った森に隠れ住むおまえなんか、妃の器じゃありません! 髪も瞳も灰色のおまえは、王子様の隣に立っても陰のようにしか見えないわ! わたくしのように、ピンク・ブロンドに黄金色の光をまとわせ、宝玉のような澄んだ青い瞳で王子様を見つめられる女こそ、妃として王子様の隣に立つべきなのです! 分不相応な望みは捨てて、灰色のぼろクズはとっとと森へお帰り!」  ローナのピンク・ブロンドが、立ち上がって炎のように揺らめいた。  青い瞳は星のように輝き、ホーデリーフェの灰色の目を射た。  右手の指輪の青い石から溢れ出た光は、呆然とするホーデリーフェを包みこむと、青白い光の玉となって魔女を空中に浮き上がらせた。光の玉の中で、ホーデリーフェは暴れて騒いでいたが、やがて光の玉が指の先ほどに縮むと、いつの間にかその姿は消えていた。  そして、光の玉は、吸い込まれるようにしてローナの指輪へ戻っていった。
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