5 指輪が転がるその先に

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「ローナさん!」  部屋に灯りが点り、明るさが戻ったとき、ローナのもとへ真っ先に駆け寄ったのは、代理人(エージェント)の青年だった。 「あ、あなたは、いったい何者なのですか? わたしが作った『姿変えの指輪』に、あんな力を与えてしまうなんて!? あれは、魔力以外のなにものでもありません!」 「わ、わたしには、何の力もありません。あなたがおっしゃるように、今日も自分の役割を一生懸命果たしただけです。今日が最後の仕事になるような気がしたので、王子様をお助けするだけでなく、少しでもあなたのお役に立ちたいと思ったのです。ごめんなさい! わたしは、本職悪役ヒロインを務めながら、いつの間にかあなたに恋をしてしまっていたのですわ!」  その言葉を聞いた青年は、ローナをひしと抱きしめた。  指輪は、彼女の指にはまっている間に、ローナ自身に魔力を与え続けていたのだ。そして、務めを果たし青年を助けたいという彼女の強い思いが、彼女の内に宿った魔力を増幅し魔女をとらえ封じることに成功したのだった。  青年の本当の名は、オーウェン・バーリス侯爵。魔道士侯爵と呼ばれた、エヴァン・バーリスの一人息子だった。  魔力をすべて神へ捧げた父に代わり、魔道士としてこの国を支えてきた人物だ。  彼は彼でホーデリーフェと王子の結婚を阻もうと、失われた魔法書を探し出し、長い年月を費やして『姿変えの指輪』を創りだした。そして、その指輪を使って、王子のために本職悪役ヒロインを育て上げることに力を注いできたのだった。  「愛憎小説」を流行らせて、ピンク・ブロンドの悪役ヒロインを人々に印象づけたのも彼だった。    ところが、最初に指輪が見つけ出した女性は、あろうことか四回目の仕事で婚約を破棄させた大金持ちの伯爵の子息と本当に恋に落ち、指輪も本職悪役ヒロインの仕事も放り出して結ばれてしまった。    まだ時間はあったので、オーウェンは、新たに本職悪役ヒロインを引き受けてくれる女性を探すことにした。  国中を旅して、ようやく指輪が見つけ出した女性が、ローナだったのだ。  ローナは、家のため、そして弟の将来のために、二年間ひたむきに本職悪役ヒロインの仕事に励んだ。  そして、どうにか、今日に間に合わせることができたのだった。
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