2 ローナ・ゴールウェイ

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 ある日、できあがったレースの付け襟を街のレース店へ届けに来たローナは、帰り道で小さなチョコレート店を見かけた。  まもなくアレックスの誕生日だ。  十五歳になる生意気盛りの弟は、チョコレートなど喜ばないだろう。だが、ずっと前、誕生日に渡したチョコレートの詰め合わせに目を輝かせていた弟の幼く可愛い顔が思い出され、ローナはついウィンドウに目をやってしまった。  ―― コトン……。  何かが転がってきて、ローナの靴に当たった。  見下ろすと、指輪が1つ、足元に落ちていた。  ローナは、指輪を拾うと急いで辺りを見回した。  落とし主が探しているかと思ったのだが、それらしき人物は見当たらなかった。  深く考えることもなく、ローナは指輪を右手の薬指にはめてみた。  ぴったりだった。  鈍い金色の台に、名前も知らない榛色の石がはめられていた。  指輪は、たいして高級な品ではないように見えた。落とした人が、気にもとめないような安物なのかもしれない。  それでも、拾った物を自分の物にすることは憚られたので、ローナは急いで指輪を抜こうとした。  ところが、どうしたことか指輪は指に貼り付いて、いくら引っ張っても動かない。  困っていると、一人の青年が声をかけてきた。 「おおっ! その指輪! お嬢さん、あなたこそわたしが探し求めていたお方です!」 「えっ!? あの、この指輪は、わたしの物ではないのです。転がっていたから拾って思わずはめたら、抜けなくなってしまったのです! ごめんなさい! 盗むつもりなどはなくて――。今すぐ外しますから!」    そう言いながら、ローナは指輪を抜こうと必死で引っ張った。  裕福な貴族の家の執事か家令のような、きちんとした出で立ちをしたその青年は、穏やかな笑みを浮かべて、ローナの言い訳を黙って聞いていた。やがて彼は、ローナの手を両手で優しく包むと言った。 「お嬢さん、指輪を外す必要はありません。その指輪は、もはやあなたのものです。それが抜けなくなったということは、あなたの指輪になったということなのです。あなたこそ、指輪が求める『本職(プロ)悪役ヒロイン』です。新たなる指輪の持ち主として、どうぞ、わたしの話を聞いてください」
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