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3 二人三脚で取り組む仕事
それから二年――。
ローナは、本職悪役ヒロインの仕事に一生懸命取り組んできた。
先日の歌劇場での一件が、ちょうど十回目の仕事だった。
十一回目の仕事のために、今日は王都へ出かけることになっている。
本職悪役ヒロインの仕事は家族にはもちろん内緒なので、別の理由をつけて家を出る。
「お父様、お母様、アレックスの様子を見に、一週間ほど王都へ行って参ります」
「ローナ、いつもすまないね。ついでに、王都の友達にでも会ってゆっくりしてきなさい」
「そうですよ。何か流行の物の1つでも買っていらっしゃいな」
両親への挨拶をすませ、屋敷の前に待っていた辻馬車にローナは乗り込んだ。
「ローナさん、今回もよろしくお願いいたします」
御者は、いつものように乗車を手伝いながら、ローナの耳元で穏やかに囁いた。
ふた月に一度ぐらいの割合で、ローナは領地から王都へ出かける。
両親に疑われたくないので、短い時間ではあったが、弟の所へも必ず顔を出すようにしている。
年頃の弟は、ローナが訪ねてくるのを喜びはするが、友達の手前、まめまめしく世話を焼かれることを嫌がるようになった。
ローナは弟が暮らす寮を訪ね、貴族学院の様子を聞く。その後二人で夕食を食べに出かけ、少額だが弟に小遣いを渡し門限までに別れる。
近頃は、いつもそんな感じだった。
そして、王都での残りの時間は、本職悪役ヒロインとしての仕事に費やす――。
王都へ向かうためローナが乗っている辻馬車の御者は、ローナに指輪を預け仕事の話を持ちかけたあの青年である。
王都での滞在費や本職悪役ヒロインの衣装も、すべて彼が準備してくれている。
彼は、代理人を名乗り、仕事の依頼人から金銭を受け取り、その一部を報酬としてローナに渡してくれる。
ローナにとってそれは、びっくりするような高額で、報酬についての不満は全くない。
近頃では、実は報酬の残りをローナの名義で投資に回してあったとかで、仕事での報酬とは別に、投資で得た利益までもらえるようになった。
両親には、レース編みや代筆で得た僅かな収入を友人に頼み王都で運用したところ、思わぬ利益を手にしたと話している。
この分なら、屋敷の使用人を増やしたり、弟を隣国へ留学させたりすることも可能ではないかと思われた。
あるいは、街で小さなレース編みの店を出すこともできるかもしれなかった。
(そろそろ潮時かもしれないわ。一財産作れたことだし、きりの良いところで、この仕事から手を引くことをあの人に切り出さないとね――。上位貴族の人々の世界ものぞけたし、結果的に人助けができた。それもこれも、この指輪とあの人のおかげだわ。田舎のさえない貧乏男爵令嬢のわたしに、素敵な夢を見せてくれた。でも、人は、いつか夢から覚めるものだから――)
王都へ向かう馬車の中で、ローナは一抹の寂しさを覚えながら、そんなことを考えていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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