第0章:はじまりは突然に

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「おーいユキハ。準備できたか?そろそろ出ないと遅れるぞ?」 そんな声と共にゆっくりと開かれる扉にハッとすると、ユキハは慌てて声をあげる。 「トウヤ⁉ ダメだって! 急にドア開けたら……」 制止するその声も虚しく、思い切り解き放たれた扉は、隣に置かれている本棚に衝突し、その反動で積まれた本の束が遠慮なくトウヤの頭上に降り注ぎ、彼は重力に従って地面へと沈んでいく。 その衝撃にユキハはたまらず目を塞いだが、音が消失後ゆっくりと眼を開きおずおずと尋ねた。 「だ、大丈夫……?」 返答こそなかったが、代わりに彼のチャームポイントである黄色い浮き毛がぴょこっと挨拶し、主の無事を告げる。 そう、魔法関連だけでなく彼女に近づく者に対して無差別にトラブルを生むという呪いを生まれつき持っているということもまた悩みの種だった。 「気にすんなって。もう慣れっこだしな!」 トウヤが本へのダメージを確認しながら本棚に並べていると、その目先ではユキハがぽろぽろと大きな涙の雫をこぼしていた。 「ごめんね。私がこんなだから……私が化け物だから」 そこでトウヤは強くユキハを抱きしめ、その色素を持たない純白でふんわりとした髪を撫で、切り傷が残った自身の左腕を彼女に見せる。 するとそれは瞬時に塞がり、傷そのものが消えていった。 「だいじょうぶだって。俺の傷もすぐ治っただろ?お前が化け物なら、俺もそうだよ。ほら、俺達仲間だ。一緒に学院に行こうぜ。ここならきっと友達ができるって」 「友達……」 『友達』。彼女にとってこれほど重たいものはないことを彼はよく知っている。 だからこそ敢えてそれを口にするのであった。
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