第1章:新入生クエストは波乱万丈⁉

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「行ってこい」 ゼロの合図と共に、瞬時に領域展開したユキハは飛び出し、ガーゴイルに向けて発砲する。 放たれた弾丸は簡単によけられるがそれは想定内で、ユキハはその間に紅蓮に魔力を込める。 そして銃口を地面に向けて引き金を絞ると薄緑色の魔力が噴出され、ガーゴイルと同じ高さまで飛翔した。 そして今度は銃口を背後に向け、その勢いでガーゴイルとの距離をゼロ距離に詰め、首元に蹴りを決める。 その攻撃は重く、蹴られたガーゴイルは滞空を保てなくなり、痙攣しながら墜落していった。 「え、あれって……」 「おいおいおい……」 「上出来だ。ユキハは素直で飲み込みが早いからつい楽しくなった。これが残り半分のお楽しみだ」   ユキハの出来にみんなが感嘆している背後で、トウヤは悔しさから地面を殴る。そんなトウヤに声をかけたのは意外な人物だった。 「その術式はね、昔僕が作ったものなんだよ。ほら、もっとその爪に意識を集中させて。今の君は何? 雷獣だよ」 モノのアドバイスを受け、改めて両手を見るとそこには弱々しいカギ爪が生えている。 この爪では何も斬り裂けない。もっと自分に力を……そう念じると、グローブは強い輝きを放ち、カギ爪は太く、そして長く成長し、まるで狼のような立派な双爪となった。 トウヤは体中から溢れ出るエネルギーに従って、腕を地に下し四足の構えをとる。 「さぁ、自分らしく、自由に行っておいで」 「ユキハ! 代われ」 ユキハと入れ替わる形で残り二体に向かって飛びかかるが、先程のように目標を胴ではなく羽に変え、両の爪でその羽を切り落とす。 本体から切り離された羽は雷の魔力を受け分子レベルに分解され、残された胴もゆっくりと分解されていった。 今のトウヤにはここまでが限界で、魔力付与も領域も解除され、宙にいたトウヤは脱力し重力に従って地面に落ち、また同時に分解しきれなかったガーゴイルがトウヤを道連れにしようとする。しかし、トウヤに牙をむけたガーゴイルはマグナの銃で瞬殺され、トウヤもまたアイリスによって受け止められた。 「あの、俺。マグナ先輩、ごめんなさい。それにモノ先輩も……俺、態度悪かったのに」 「ふん、見てて危なっかしかったからね。まぁ、今日は覚悟が伝わったから。特別だよ」 「でも、男を魅せたな。……ん?」 トウヤが口を動かすが声にならない様子に気づいたマグナは、目の奥を覗き込む。 「目が混濁してる。魔力が枯渇しかけてるな。トウヤ、ゼロの魔石をつけてるだろ? それにゼロの魔力が込められてるんだ。力を引き出したいって意識しろ、そしてら楽になる。聞こえるか⁉」   トウヤの魔力消費が限界を超えてしまったため意識がぼんやりとし、マグナが何か話していることはわかるものの、集中できず理解ができていない様子に気づいたゼロは、トウヤを自らの膝に寝かせ、肩を叩きながら右耳を触る。 「トウヤ、聞こえるか? ここだ、ここ。ここに意識を向けろ」   実際に触れられることで一瞬そこに意識が向き、そこからはなみなみと自身に魔力が注がれてくるのを感じ、一気に楽になる。目の混濁も消失したのを確認し、ゼロはエレンの頭を力強くつかんだ。 「よく戦った……と褒めてやりたいところだが、それは他の奴らに任せる。 魔力の枯渇は術者の生命にかかわることぐらい常識だろう。あいつらが簡単に魔力付与をしているのは訓練あってのものだ。魔力付与は効果的だが、今のお前らの魔力では容易に魔力が枯渇するのはわかっていた。だから最初に戦うならと魔石を貸したんだ。誰かを守りたいと願うなら自分のマネジメントぐらいできるようになれ」 「……ごめんなさい」   ゼロはそう告げると立ち上がり、一人先に歩き始めた。ゼロの背後には、心配そうにのぞき込んでくるユキハがおり、トウヤはそっと頭を撫でた。トウヤは意気消沈して立ち上がるとマグナがトウヤの背を叩く。 「確かにあいつの言うことは正論だけど、怒ってるわけじゃなくてお前のことを心配してるだけだからそこはわかってやってくれ。よし、俺達も行くぞ」
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