第1章:新入生クエストは波乱万丈⁉

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「あらら、逃げられちゃったね。だけどあの子には手を出させないから心配しないで? フェル、こっちだよ!」 「ルル、お前はまたここで遊んでるのか。……このニオイ。なるほどお前等ケダモノか」 「面白そうでしょ? あ、手を出したらダメなんだからね? こいつらは私の獲物なんだから」 「なら勝手にすればいい。俺は後ろでのんびり見てるさ」 ルルが、仲間のフェルとじゃれている間に、モノはカレンに視覚の同調を指示する。 しかしこの同調は、効果が絶大な分、主である姫を除けば守護者のリーダーであるマグナ以外では禁忌とされており、特にモノの体にかかる負荷を考えるとカレンは返答を躊躇ってしまう。 それを悟ったモノはカレンの首元に掴みかかった。 「お前……獣だよな? ユキハを助けたくないのか?」 「……わかったよ。でも、無理はしないで」 モノの迫力に押され、カレンはモノと視覚の同調を開始させるとモノの覚醒具が茶色のオーラを放ち始め、猫の持つ視覚を得たことを実感すると共に、咳きこみ、その場に大きな血だまりを作ってしまった。 「モノ君!」 「僕は大丈夫。カレンとアイリスはユキハ姉達を守る壁になれ。僕はわがきみの牙だ。僕には僕の仕事がある」 「ケダモノ君。心配しないでいいよ? 全員遊び殺してあげるからさ。君、犬でしょ。犬の分際で生意気だよ」 モノは領域展開しルルに向かって一気に飛びかかり、その首元に雷牙で噛みつこうとするが、目に見えない力に跳ね飛ばされてしまう。 それに対し苛立ちを覚えたモノは上着を脱ぎ棄て、魔力を高めていくと両腕に巻き付けられていた黒いベルトが弾け飛んだ。 「モノ! それは流石にダメ!」 「弱虫は黙ってろ」   モノは自身から次々と溢れ出る魔力と雷の力に、たまらず苦しみの声を漏らす。 その様子を見たユキハは、込み上げる恐怖に震えが止まらなくなる。 「あのベルトはね、マグナとゼロ先輩が作った魔力を封じるための物なんだよ。あれで、いつも九割以上の魔力を封じてるの! その理由はわかるでしょ‼」 突き付けられている現状と、カレンの怒号にユキハは咄嗟に、モノを止めるべく抱きしめようとするが稲妻の中から出てきた青年に止められてしまう。 出てきた青年にユキハとトウヤが呆然としていると、少し大人びた、しかし聞き覚えもあるような声が響いた。 「たく、カレンも心配性だなぁ。俺の心配をする前に自分達の心配でもしたら? 俺が死んだら、あんたらも終わりだよ? そこの猫じゃ、猫パンチがせいぜいだろうしね」 「相変わらずその姿だと口悪くて可愛げないなぁ」 「あんた、誰?」   十五、六程に見える青年は、軽く準備運動を始めるが、トウヤの問いに鼻を鳴らした。 「トウヤ、お前馬鹿? 俺の顔忘れたのかよ。モノだよ。普段は力を封じられていて、おこちゃまサイズだけどな」   モノが魔力の質と量を高めていくと、雷は蒼色に染まり、それはまるで蒼白い狼をかたどっているようだった。
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