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12.美味しいご飯と特別な飴
ディーのお家には、お掃除を仕事にする人がいる。お母さんは苦手だったし、お父さんもあまり得意ではなかった。ちゃんとお掃除の人がいるから、靴で歩いていいと言われる。
「あのね、靴で歩かなかったらお掃除が楽だよ」
「そうだな。だが、お掃除の人の仕事がなくなるぞ」
お仕事がなくなると、お金がもらえなくて、ご飯が買えない。聞いた内容をいろいろ考えて、僕は大きく頷いた。
「このお部屋は靴で歩いて、寝るお部屋は脱ぐよ」
半分でお仕事が楽になるし、お金ももらえると思う。にこにこと話す僕に、ディーは頭を撫でて笑った。それでいいと認めてくれる。嬉しいな。
お風呂は向かいの扉で、隣がトイレとかある。廊下の扉が開いて、アガリが顔を見せた。すごいんだ、小さい机みたいなのが押すと動くの。下に輪っかがあって、転がるんだよ。僕のお家にはなかった。
銀色の小さな机を追いかけたら、アガリが名前を教えてくれた。ワゴン……なんだか強そうな名前だね。ディーが持ってきたお水で顔を洗って、手も拭く。柔らかいタオルは白かった。花の匂いがする。
膝に僕を座らせたディーの前に、アガリがご飯を並べた。あの白いもやもやが出るのは、熱い。僕の知らないご飯が多かった。小さい粒がたくさん入った茶色いお皿、丸いのは卵かな? あと、ミルクと野菜、あっちのはお肉かも。ひくひくと鼻を動かして匂いを確かめた。
「どうした?」
「どうやって食べるの」
見上げたら、ディーが銀色のスプーンを手に取った。それからミルクを茶色い粒の上に流す。それをスプーンで掬おうとして、アガリが止めた。とろりとした蜂蜜を流し入れて、混ぜてから掬い直す。
「こうやって食べるんだ。ほら、あーん」
素直に口を開けた。蜂蜜は花の香りがして、甘くて美味しい。ミルクに混じった茶色い粒もサクサクしていた。初めての味だ。ドキドキしながら、同じスプーンで食べるディーを見上げた。また差し出されたスプーンをぱくり。
「おいちぃ」
ほっぺが落ちちゃうの。両手で頬を押さえて、体を揺らした。アガリもお向かいで食べている。取り出した、ごつごつの果物を剥き始めた。ナイフじゃなくてね、爪を長くしてシュッと切るの。あれはお父さんも使ってた。
手を叩いて喜ぶ僕に、剥いたばかりの果物をくれる。ありがとうとお礼を言って、アガリの手から食べた。これも甘くて美味しい。お肉はカリカリに焼いてあって、木の香りがした。卵は殻を剥いて、白い部分から齧る。中の黄色い部分にたどり着いて、少しだけお塩を振ってもらった。
いっぱい食べて、お腹いっぱいになる。そういえば、昨日はお腹空いていたのに、飴をもらってから平気になった。あれは特別な飴なのかも。身振り手振りを交えて伝えたら、笑顔のディーからまた飴をもらえた。
特別な飴だから、ポケットに入れておこう。困った時に食べるの。そう伝えたら、ディーはうーんと唸った。僕は間違えたのかな?
「飴はなくなるたびにやろう、だから食べたくなったらいつでも食べて、俺に教えてくれ」
好きな時に飴を舐めて、なくなったらディーに言う。新しい飴がもらえる? 大きく頷くディーに重ねて、アガリも飴をくれると約束した。よかった、安心して舐められる。ポケットにしまった飴を取り出し、からんと音をさせて口に入れた。
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