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13.大切な毛布がないの
アガリは僕のお洋服を回収した。でも数が少ない。半分くらいかな。首を傾げて、お気に入りの小さな毛布がないことに気づいた。
「これくらいの、毛布」
「……っ、探してきます」
薄いピンクのカバーで、いちごの絵が描いてあるの。両手で説明したら、慌てて探しに行ってくれた。帰ったばかりなのに、ごめんね。でも、あの毛布があるとよく眠れるんだよ。
「大好きな毛布なんだな」
「うん、お母さんが初めて縫ったカバーなの」
お母さんは大きな力を使うのは上手だけど、小さい魔法は苦手だった。獲物を捕まえるのはできるけど、ご飯は作れないの。お洋服だって買ってきたり、お父さんが作ったりしたんだよ。でも、僕のお誕生日用に、特別に作ってくれたんだ。
魔法だと上手にいかないから、自分の手で。僕は隣でそれを見ていた。指が傷になって、僕が泣いてもお母さんは諦めなくて。だからとても大切な毛布なの。作ったのはカバーなんだけど、気持ちいいから毛布も好き。
アガリは探し物が上手だと聞いて、安心しした。今日はディーのお仕事が休みだから、僕とお屋敷を見て歩く約束をする。その前にお昼寝だよ。毛布がないけど、ディーの抱っこで目を閉じた。
ドラゴンはお昼ご飯を食べないの。朝と夜だけ。その代わりにたくさん食べるんだ。お父さんもそうだったから、僕は知ってる。だからお昼なしで、おやつを食べるの。起きてすぐ用意されたお菓子を食べ、お茶を飲む。
アガリはまだ帰ってこないから、手を繋いでディーとお屋敷の廊下を歩く。部屋を出たら、細長い廊下があるけど……普通のお部屋くらい広いね。ドラゴンで歩くこともあるから、広く作っているみたい。お部屋も運動できるくらい広かった。
飾っている絵も大きいのと小さいのがあって、見て歩くと楽しい。天井に絵の描いてある部屋があって、ずっと見ていたら転びそうになっちゃった。ディーが抱っこしたので、その間にいっぱい天井の絵を見る。
「綺麗な絵だね」
「いろんな種族が描かれているんだ。あれはドラゴン、こっち側は魔族で……吸血種や巨人族もあるぞ」
人間は描いていないみたい。絵に描かれた人は、皆、特徴があった。牙が立派だったり、ツノが生えていたり、羽が背中についていたり。爪がすごく長い人もいた。鱗のある人もいるんだね。あの人は腕がいっぱいあるし、耳が細長い人も。
夢中になって見ていたら、いろんな種族の人に会わせてくれると言われた。ほとんどの種族の人はお友達だって。ディーのお友達はいっぱいで、羨ましいな。
「ルンはお友達がいないのか?」
「精霊の子がいる」
精霊や魔獣の子は一緒に遊んでくれた。でも人の形で大きいお友達はいないの。しょんぼりしたら、ディーが首を傾げた。
「俺はルンの友達じゃないのか?」
「友達してくれるの?」
「ああ、光栄だな」
こーえーは知らないけど、お友達だ。お父さんやお兄さんみたいなお友達。アガリもお友達になってくれるかな。尋ねたら、ディーはもちろんだと頷いた。そっか、僕がわかってないだけなんだね。
「精霊や魔獣に口止めしないとな」
ぼそっと呟いたディーの言葉がわからなくて、聞き返した。
「ああ。せっかくだから精霊や魔獣の友達に会ってみたいと言ったんだ」
そっか。今は違うお家だから、こっちにいるよと知らせなくちゃね。
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