16.山みたいに大きな木の下で

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16.山みたいに大きな木の下で

「うわぁ! 高いね」  ディーはふわりと浮いて、ちょっと羽を動かすだけで高い場所まで上った。大きかったお屋敷が、あっという間に小さくなる。落ちないと言われたので、僕は何も心配しなかった。  お父さんの背中で飛んだことあるけど、落ちなかったもん。きっとディーも平気だと思う。それに、僕も背中に羽があるんだよ。こないだ人間に捕まって千切られちゃったけど、きちんと治療してもらった。今は動かせないから収納している。  お医者さんがいいよと言ったら、羽を出すんだ。それまで我慢だよ。羽が傷になったままだと、帰ってきたお父さんが心配するし、お母さんが怒って街を壊しそう。僕のお家では、お母さんが一番強いの。  行くぞって話すディーの声が、頭で響いた。これも含めてお父さんと同じ。僕が話した声も、風に消されないで届くはず。 「ディー、どこへ行くの」  あっちの山だ。くるりと旋回したディーが示したのは、ちょっと低い山だった。隣の方が大きい山だけど、小さい方へ行くのかな。近づいて気づいた。あれ、山じゃなくて大きな木だ! 「木に降りるの?」  そうだと返ってきた言葉に重なって、ディーの羽がひゅーと甲高い音をさせた。少しずつ下向きになって、白い綿みたいな雲を抜ける。降りて行くディーは、何度か大きな木を回った。根元にある広場みたいな場所、最初は小さな穴だったのにどんどん大きくなる。  ディーの羽がぶつからずに、すっと滑るみたいに着地した。軽くとんとんと衝撃があって、ディーの足が前に走る。そこで止まった。僕は椅子ごと縦になったの。でも落ちない。 「いま降ろすからな」  ディーは僕を浮かせて、そっと地面に座らせる。怖くないよ、魔力がディーの匂いだもん。腕みたいに抱っこして、ゆっくり下ろしてくれた。座ったまま待つ僕の横に、運んできた荷物が下ろされる。  ご飯が入った箱も、着替えや毛布の入った包みも、全部並べられた。椅子ごと降りた僕は、大きな木を眺める。凄いなぁ、こんなに大きい木があるなんて。遠くから山に見えるほど大きな木は、ざわざわと葉っぱを揺らした。 「ルン、怖くなかったか?」 「うん、平気。この木に会いにきたの?」 「いいや、ここに住んでいる奴らがいる」  ディーが遠い枝を見上げて、口笛を吹いた。するすると木を降りてくる人がいる。木が大きすぎて、小さい蟻みたいだよ。よく見ると木の表面に細長い紐がいっぱいあった。 「あれは蔦や蔓の植物だ。木とは別に生えている」  ディーの説明に頷いた僕は、伸ばされた手に掴まった。抱っこされて、木から降りた人と向かい合う。色が木みたいな人だ。茶色い肌と緑の髪の毛、目の色は金色で葉っぱから漏れる光みたい。 「こんにちは」  ぺこりと頭を下げて挨拶する。驚いた顔をしたあと、同じように頭を下げて挨拶を返してくれた。その後、ディーに聞いたことのない言葉で話しかける。言葉が違うのかな。  あれ? 僕の挨拶、ちゃんと伝わってないかも。
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