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20.聞こえないお話
僕は大変なことに気づいちゃった。くんくんと腕を匂って、ディーの袖を引っ張る。
「ディー、僕……臭いかも」
「どれ。いい匂いだぞ」
くんくんと匂ったディーは、不思議そう。でもね、僕は昨日お風呂に入ってないの。今夜も入らないと二日も入んないんだよ。きっと臭うよ。こそこそと訴えたら、何でもないことのようにディーは「魔法を使ったぞ」と答える。
「魔法で綺麗にしたの?」
「ああ」
そっか、よかった。お母さんが使ったのと同じ魔法を、ディーも使えるみたい。安心して毛布を被る。今日は木の登り方を教えてもらった。シエルの教え方はわかりやすくて、力の弱い僕でも登れたよ。でもすぐ疲れちゃう。
体力をつけろと笑うシエルは、今、お嫁さんのいる枝にいた。僕達はシエルのお家でお留守番だよ。ごろんと寝転がった僕は、赤く染まった空を見上げた。
「きれぇだね」
ディーは何も言わず、僕の頭を撫でた。どうしたんだろう、いつもなら「そうだな」とか「ああ」とか返すのに。大きくて温かい手に撫でられると、眠くなっちゃう。もうすぐシエルが帰ってくるから、そうしたら寝る時間だ。
明日もお日様と一緒に起きる。ちゃんと起きられるかな。あふっと欠伸が出た。お昼寝もしたのに、まだ眠いんだ。ごしごしと目を擦ったら、濡らした布で拭いてくれた。
「明日は家に帰るぞ」
「うん。ディーは飛ぶから……はふっ、いっぱい、寝て」
お話の途中なのに、もう起きていられないかも。床に敷いた平たいお布団に寝る僕は、音に気づいた。お部屋に誰か入ってきた? 目を開けようとするのに、どうしても無理。
諦めて動かずにいたら、滑った毛布をお腹に掛け直された。ディーのお膝に頭を載せた僕は、くるんと体を丸める。横向きの顔に影がかかった。
「もう寝たのか?」
「ああ。朝早くて疲れたんだろう」
「あれだけ動けば、眠くもなるか」
シエルが座る音と振動を感じながら、目はどうしても開かない。うとうとする意識は、僕の体の上にある感じがした。体から出ちゃったかも? そう思うくらい軽かった。ふわふわしている。
「ルンは、誰の子だ? これほど大きな器を持つ子は初めてみたぞ」
「……魔王と先代竜王の子だ」
頭の上の会話をぼんやりと聞く。言葉は耳から入ってくるのに、意味がよくわからない。ただ音が鳴ってるだけ。
「預かったのか」
「いや……両親が殺されたので保護した」
「はっ? あの魔王が……それはない」
否定するシエルに、ディーが何か言って、また返事がある。でも僕の耳はもう眠ったみたい。全然聞き取れなかった。僕は大きな木を登ったり降りたり、途中でお嫁さんのお部屋を覗いたり。忙しく動き回った。
目が覚めて、夢だったのかな? と首を傾ける。すごく楽しい夢だった。あのくらい自由に動き回れたらいいな。
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