23.嵐は悪くないんだね

1/1

392人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ

23.嵐は悪くないんだね

 森の木が倒れて、獣がケガをして、嵐の影響は大きかったんだ。湖も上から見たら綺麗だったけど、溢れて周りが水浸しなんだよ。  アガリが持ってきた書類には、そういう難しいお話が書いてある。僕はまだ読めないけど、聞いたら教えてもらえた。花がいっぱいの草原も、強い風で散っちゃったみたい。 「大丈夫かな」  嵐がそんなに怖いと思わなかった。雨がたくさん降って、お外へ出られない。それに暗くなって、大きな音がするんだ。でも、僕はそれ以上を知らなかった。話を聞いて、少し怖くなる。 「嵐は悪いことだけじゃない」  書類に何か書いたディーは、その紙を箱に入れた。それから膝の上に座る僕に話し始める。 「背の高い木が折れると、下から新しい木が生えてくる。たくさん陽を浴びて、元気に育つ」  大きい木の影にならない。そう付け足されて、へぇと声が漏れた。大きい木はもうたくさん成長したから、小さい木に順番で譲る。その順番を促すのが、嵐なんだと覚えた。  獣も同じ。強い個体が生き残れるよう、弱い個体を間引く。よくわからないけど、全員生きていられたらその方がいいのにと思った。全員が生きていたら、食べるものや寝る場所が足りなくなる。  弱肉強食といって、草を食べる動物は、肉を食べる動物のご飯になるの。そのお話は、前にお父さんから聞いた。それが無理やりたくさん起きるのが、嵐なんだね。水が溢れるけど、森のすべてに雨がたくさん降る。その水は染みていって、湧き出るの。  いっぱい教えてもらい、頭の中でお話が詰まっちゃった。うーんと唸ったら、残りはまた今度とディーが話を終わらせる。ごめんね、もう少し頭の中身を増やせたらいいのに。  アガリがご飯だと知らせて、僕達は移動した。ここはアガリやディーが暮らすお家だけど、他のドラゴンも住んでいる。廊下で繋がった先に、太い腕の大きな人がいっぱいいた。ドラゴンの竜族で、いろんな仕事を任されているんだ。  そちらの建物は、僕だけで行ったらいけない。二人と約束した。でも一緒ならいいの。今日はそっちの食堂へ行くんだ。すっごい広い部屋に、机がたくさん並んで、椅子がいっぱい。僕が両手で数えても、すぐ両手がいっぱいになる。  並んだ椅子に僕を座らせ、ディーとアガリが立ち上がった。ご飯をとってくるから、僕はここで待つ。少し離れたところで、ディーのお部屋の入り口を守る人が手を振った。僕も振り返す。なぜか知らない人も皆、手を振ってくれた。  間に合わなくて、椅子の上に立って両手を振り回す。そこへディーが戻ってきた。 「何して……? ああ、挨拶か。偉いな、皆が喜ぶぞ」 「ルンはいい子ですね」  二人に褒められて、ディーのお膝に座る。椅子の上に立つときは、ちゃんと靴を脱いだの。アガリがまた履かせてくれた。お礼を言って、ご飯の乗ったトレイを覗き込む。  大きなお魚に、野菜がとろりと掛かったお皿。それから薄くて平べったいパン、赤いソースのお肉があった。  美味しそうと呟くより早く、お腹がぐぅと催促する。笑ったディーがお肉を切り分け、小さくした分を僕の口に運んだ。赤いソースは果物かな、少し甘くて酸っぱくて美味しい。  口いっぱいにお肉を入れて、もぐもぐと動かす。柔らかいんだけど、飲み込むのは時間がかかった。その間に、パクパクと二人は食べていく。お魚をバラバラにして、僕の口に入れてるのに、何倍も自分の口に運んだ。  大人ってすごい。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

392人が本棚に入れています
本棚に追加