25.大変です! ***SIDE竜王

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25.大変です! ***SIDE竜王

 綺麗な顔を知らないのか、そう思うほど褒める幼子。ルンはきちんと理解していた。人の本質を見抜く能力は、母親譲りかもしれない。  魔王として君臨する母親と、元竜王の父親を持つルンの情報は驚くほど少なかった。集めようとしても、大した情報が入ってこない。意図的に隠していたのか。訪ねてくる者はいたようだが、ルンの話では挨拶程度の交流しかなかった。  これほど愛らしく、周囲を魅了して輝く魂なら、当然だろう。幼子を残して死ぬなど、さぞ無念だったはず。この子は必ず立派に育ててみせる。そう決意したところへ、大騒ぎした部下が報告を持ち込んだ。驚きすぎて、書類にまとめず口頭で告げられる。 「大変です、ボス! 魔王様と先代様は生きてます」 「はぁ?」  遺体をこの目で見た。いや、確かに脈や心臓は確かめていないが、あの出血量だ。遺体の魔力量も少なく、生存していると考えるより残留していただけ。妥当な判断だった。もし生きていたなら、何としてもルンを取り戻そうとするはずだ。 「何を馬鹿なことを」  同様にアガリも遺体を目にしていた。洋服を取りに向かった際、触れて冷たいことを確認したという。魔獣などに遺体を喰われぬよう、結界まで張ったのだから間違いない。アガリと顔を見合わせる俺は、やれやれと首を横に振った。  ルンが寝ている時でよかった。さきほど果物で手が汚れたルンを入浴させ、昼寝をさせたばかり。こんな話を持ち込まれたら、混乱させてしまう。まだ両親の死を伝えるのは、早過ぎた。  報告に飛び込んだ部下は、羽をしまうのも忘れている。広げたまま、はあはあと肩で息をした。 「ちょ……、もう! 現場を見てください」  強く言われ、仕方ないと腰を浮かせた。ひとっ飛びの距離だが、ルンが起きるまでに戻れるだろうか。アガリと相談し、彼を残すことにした。二人揃って離れた間に起きたら、可哀想だからな。  ふわりと浮いた俺は、部下を置き去りにして洞穴へ飛ぶ。魔王の住まいである情報は、あまり広まっていない。さほど高くない山の中腹にある、目立たない洞穴の入り口にドラゴンが集まっていた。  出向いた部下達は、慌てて着陸の場所を空ける。そこへ舞い降りて、するりと人型になった。血塗れだった入り口は、どす黒く染まっている。真っ赤な血の色同様、気が滅入る。すでに遺体は動かしたらしい。そう判断して奥へ進んだ。外にないなら、内側だろう。  ルンが教えてくれた通り、まず客間があった。誰もいない部屋の奥は、居間だろう。天井に明かり取りの穴が見える。明るい室内、その奥にある扉が開けっぱなしだった。ルンの説明では、寝室に当たる。 「なっ! ……封印?」  覗き込んで絶句した。寝室の家具や装飾ごと、部屋が凍っている。隙間なく氷に埋め尽くされた部屋のベッドに、魔王と前竜王が並んでいた。血はなく、今にも起きてきそうな……ただ眠っているように見える。  触れた氷は、不思議と冷たくなかった。ここで封印の可能性に気づく。魔力を大量に消費するが、種族進化など特定の条件を満たすと発動するのが封印だ。冷たくない氷に包まれ、進化が終わるまで溶けることがない。 「……確かに、大変な事件だ」  予想外すぎて、俺はそう呟くのが精一杯だった。 ********************* 更新時間を6:30、12:00にします_( _*´ ꒳ `*)_
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