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27.まだ帰ってこない
僕のお昼寝中に、ディーは仕事に出かけた。お日様が傾く頃には帰ってくる。アガリはそう言ったのに、全然帰ってこない。窓に肘をついて、外を眺めた。
お日様は斜めになって、お空を薄いオレンジ色にした。横向きに傾く頃には、青とピンクになる。真っ赤な色にならなかったお日様が沈んで、青が多くなった。まだかな、ぶらぶらと足を揺らす。こつん、つま先が壁に当たった。
「あっ! ディーだ」
まだ姿は見えないけど、すごい勢いで飛んでくる。あれはディーだよ! 叫んだ僕に、作業をしていたアガリが駆け寄った。
「兄さん?」
「うん。ほら、あっちの方」
指差した方角は、もう暗くて青より黒だった。その中に、ぽちっと白い星がある。でもあれじゃないの。その下の方だよ。何度も教える僕の横に顔を並べて、アガリはじっと見つめた。
「あっ、本当に兄さんです」
「うん」
帰ってきたディーは、そのまま窓へ向かってくる。お庭に降りるんじゃないのかな? シエルのところへ遊びに行った時は、広い場所に降りたのに。こてりと首を傾げた僕を、アガリがさっと抱き寄せた。
「危ないから、このままで」
アガリの言葉が終わるより早く、天井で変な音がした。べこっとか、ぐしゃっとか。見上げるけど、穴は空いてない。ディーはどこへ行ったのかな。きょろきょろする僕は、廊下の方を見て止まった。
「アガリ」
あっち、指差す前に扉が開く。廊下から入ってきたディーは、背中の羽が広がったまま。入り口の扉に羽がぶつかって、変な音がした。痛そうなのに、全然平気な顔をしている。でも扉が変な形になったよ。
「兄さん、急ぐのは理解しますが壊さないでください」
「やわな扉が悪い」
ぶつぶつ文句を言うアガリに、ディーはぴしゃっと返した。両手を広げて僕を抱き上げ、いつもみたいに腕に座らせる。頬を擦り寄せたら、いっぱいチューをしてくれた。
「ただいま、ルン」
「おかーりなさい」
上手に言えた。嬉しくなってにっこり笑う。後ろでドラゴンの一族の人が何か騒いでる。つんつんと頬を突いて、後ろを示してみた。呼ばれたディーは、嫌そうに僕を下ろした。代わりにアガリに抱っこしてもらう。
「すぐ戻るから」
待ってるねと手を振って、アガリにお話を聞いた。ディーはいつもの着陸のお庭じゃなくて、屋根に降りたんだって。凹んだり傷になった部分を、直さないとダメなの。
壊さないように、お庭に降りたらいいのに。ね! と二人で笑い合って、僕は温かい気持ちでアガリと待った。さっきとは違うの。すぐ近くにいるのがわかるし、屋根の上で音もしている。
「先にお風呂に入りますか?」
「ううん、ディーと入る。アガリも一緒に入る?」
寂しそうな顔をしたので、三人で行こうと誘った。お付き合いします、とアガリは笑顔になる。そうだよね、一人でおふろは寂しいもん。一緒がいいよね。
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