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29.ずっとお泊まりできる
「僕、一人は無理だよ。ご飯とれないし、お風呂も寝るのも怖い」
我慢できずに溢れた言葉に、驚いた顔をしたディーとアガリは慌てて叫んだ。大きな声で、びっくりする。
「ルンを一人で放り出すわけない!」
「そうです、ご両親が起きるまでお預かりします」
僕は一人じゃなくて、お母さん達が起きるまで、お預かりされる。お預かり……? お泊まりじゃなくて?
「お泊まり?」
「ああ、そうだ。ずっとこの屋敷に泊まれ」
「住んでいいの?」
「もちろんです」
二人が言うならいいのかな。安心したら眠くなってきちゃった。あふっと大きな欠伸をして、ディーの腕に擦り寄る。優しく撫でる指はアガリかな。気持ちいい。
うっとりする僕に、二人はずっと一緒に暮らしたいと話した。嬉しいし、わくわくする。また一緒にシエルのお家に行きたいし、シエルの奥さんにも会いたい。それから、別の場所にも遊びに行きたいんだ。
もそもそと訴えて、うぅと唸る。眠いのに、寝たくないの。もっと起きていたかった。手足をじたばた動かして頑張ったけど、やっぱり無理。力が抜けて眠っちゃった。
ディーの腕の中で起きて、頬を擦り寄せる。でもディーは寝ているので、僕は彼の上によじ登った。体が分厚くて大きい。両足で跨って座ると、両側から掴まれた。
「うわっ!」
「悪戯っ子だな、ルン」
「きゃあ!」
掴んだ腕が僕のお腹をくすぐって、我慢できずに転がる。でも捕まって、いっぱいくすぐられた。苦しいくらい笑って、ようやく自由になる。まだお腹がくすぐったい気がする。
「今日は天気が悪いから部屋で過ごそう。天気が良くなったら、明日にでもルンの家に行こうか」
「うん」
頭を撫でようと手が伸ばされて、びっくりしてお腹を両手で抱っこした。またくすぐるのかと思ったけど、違うみたい。声を出して笑うディーに、ぷっとほっぺを膨らませる。怒ってるんだぞ、と示した。でもチューで許すよ。
顔を洗って、手も綺麗にする。アガリが用意してくれたお洋服を被った。今日は上からすぽんと被る服だよ。腰をきゅっと結ぶ。でも足の横に切れ目があった。用意されたズボンを履くと、切れ目からちらちら見える。
涼しいし動きやすいから、この布は好き。色が赤くて、ズボンだけ黒なの。袖や襟の模様も黒なんだって。
「かっこいいぞ、ルン」
「ありがと」
今日は歩く。宣言して、ディーと手を繋いだ。食堂は廊下の道を真っ直ぐ、途中で道が両手の方角に分かれて、左を真っ直ぐ。閉まってる扉の奥だよ。ちゃんと覚えたんだ。
説明しながら歩いたけど、ディーが「逆だぞ」って右へ曲がった。僕は間違ってないと思う。抵抗したら抱っこで連れて行かれて、奥の扉を開けたら……食堂だった。
「なんで?」
「ルンが覚えたのは帰り道だな」
帰り道? 右と左が逆になるんだって。でも突き当たりがないよ。首を傾げながら、食堂のお席についた。いつもはディーとアガリが一緒だけど、今日は違うドラゴンの人もお席が同じだった。
「初めまして、バラムと言います。ルン様とご一緒させていただいてよろしいですか?」
「ばらむ……ご一緒?」
「ご飯を一緒に食べていいかと聞いてるんだ」
ディーが付け足した。なんだ、いいよ! そう言ってくれたらいいのに。難しい言葉を使うのは、大人だからかな。
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