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34.手のひらが破けちゃった
最近、ディーとアガリはお仕事をしていた。そういう日はバラムが来てくれる。今日も二人が仕事なので、僕は棒を振り回して強くなる練習をした。
大きくて強い僕になるんだ。夢中で棒を振っていたら、バラムに止められた。手の皮が破れると痛いんだって。言われて棒を置いて手のひらを見たら、もう破れていた。赤い血が滲んだ手に気づいたら、ズキズキ痛くなってくる。
「いたい」
「頑張った証拠です。私も昔はよく破きましたよ」
破れるくらいたくさん練習すると、バラムみたいに強くなる。もっと練習したら、ディーみたくなれるかも!
「もうちょっとやる」
「今日は終わりです。治療をしましょう」
強くなるには、我慢も必要だと教えてもらう。話を聞きながら、並んで歩いた。手が赤いから、繋ぐのは我慢。お部屋に入って、すぐに女の人が飛んできた。すごいんだよ、廊下をずざーって滑ってくる。走るより速いんだ。
「可愛いルン様の手がぁ」
大騒ぎしながら、消毒の薬を塗ってくれた。痛いけれど、強くなる僕は我慢できるよ。たくさん褒めた女の人は、飴を僕の口に入れる。ころんと転がった飴は不思議な匂いがした。
「これ、何の飴?」
「ミルクです」
「ありがとう」
お礼をしたら、名前を教えてくれた。僕の名前は呼んでたからいいよね。ロレイはこのお家で働いてるんだ。お掃除したり、ご飯を作る手伝いをしたり。頑張ってね、と頭を撫でたら喜んでたよ。
手のひらにケガをしたから、今日の練習は終わり。バラムに相談して、ディー達がお仕事している部屋を覗いた。
「ルン? どうしたんだ」
練習は休みとバラムが説明した。すぐに手を確かめて、白い布が巻いてあるのを確認し、にっこり笑う。
「これは頑張った証拠だな、勲章だぞ」
「くんしょー?」
「ああ、竜王からルンへ勲章をあげよう」
アガリが頷いて、何かを取り出した。小さな箱はディーの手のひらに乗っかりそう。中を開けると、小さな赤い石が入っていた。お日様色の縁が付いている。ディーの大きな指が摘むと、より小さく見えた。
「これを授ける。ルン、敬礼してごらん」
バラムが隣で敬礼して、僕も真似して頭に手を当てた。ディーが手にした勲章を、アガリが受け取る。すぐに膝をついて、僕の服に付けてくれた。胸のそばだよ。キラキラしてるけど、よく見えなくて、襟を引っ張った。
「とても似合ってるぞ」
褒めたディーは、鏡を差し出す。服を引っ張るのをやめて鏡を覗いた。僕の服に赤いキラキラの石が光ってる。
「キラキラだ!」
「訓練を頑張った偉いルンへのご褒美だ。痛いのによく我慢したな」
「僕、平気だよ。背中の羽より痛くなかったもん」
伝えた途端、皆が悲しそうになった。羽の話はしない方がいいのかな。今はちゃんとお薬塗って畳んでるから、痛くないんだけど。そう付け加えようか迷って、もっと悲しそうになると嫌だからやめた。
「ディーのお仕事みして」
せは言いづらいの。ちょっと変な言葉になった。ディーは悲しそうな顔をやめて、僕を抱っこして椅子に座る。バラムは部屋の壁際に立った。少しアガリと話した後、外へ向かう。
「バラムはどこ行くの?」
「バラムも訓練がある」
あ、そうか。もっと強くなりに行ったんだね。僕はディーのお仕事の書類を眺めた。いっぱい文字が並んでるけど、読めない。知らない文字ばかり。足を揺らした僕に、ディーは仕事をくれた。
「これを押す仕事を頼む」
「うん」
嬉しいな、僕もできるお仕事がある。邪魔じゃなくてよかった。
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