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36.噴水の隣のお花が欲しかったの
両手で数えきれない日を過ごして、僕はお手紙をもらった。読めないんだけど、シエルからだった。奥さんに赤ちゃんが産まれたの。その報告みたい。
手紙を読んだディーが教えてくれたので、会いに行くことになった。ディーとアガリが喧嘩して、でも怖くなった僕が泣いたら仲直りする。どっちが一緒に行くかで喧嘩したんだって。僕はどちらでも楽しいけど、シエルはどうだろう。
ディーのお友達なら、アガリとはまた今度出かける方がいいと思う。お話しして、次はアガリとお泊まりで遊びに行く約束をした。聞いてたバラムも約束したいと手を挙げたので、アガリの次ね。お出かけの約束がいっぱいだ。
今日の夜に、ディーの背中に乗って出かける。朝までに着いたら、ゆっくりできると言ってた。それまで仕事だから、ディーはアガリに連れられて仕事のお部屋にいる。僕はお土産を用意するんだ。
にこにこしながら、一人でお庭の花を摘んだ。シエルの奥さんへ持っていくの。赤いのと、紫のと、黄色いの。白いのも欲しいな。束にすると色が足りなくて、緑の葉っぱも足した。いつも咲いているピンクがなくて、きょろきょろと探す。
噴水の近くに咲いてる! 見つけて駆け寄り、座ってピンクの花に手を伸ばした。でも届かない。僕の手は子供だから、小さくて短いの。困ったな。バラムはお花を入れる籠を取りに行ったから、まだ帰ってこないし。
摘んだお花を横に並べて、ばらばらにならないよう小さい石を置いた。膝をついて、ぐっと腕を伸ばす。あとちょっと……。ぐらっと傾くのが分かって、慌てて立とうとしたけど間に合わない。ばしゃんと噴水に落ちた。
縁まで手が届かなくて、ばたばたと暴れる。怖い、どうしよう。
「あらっ、大変! 間に合ったかしら」
抱き上げる腕にしっかりしがみつき、抱っこで外へ出してもらう。びっくりしすぎて、涙がいっぱい出たし、顔も体もびしょ濡れで、しゃっくりまで出た。
「ひっ、く……あり、っと、っく」
ありがとうが上手に言えない。でも伝わったみたい。僕を助けてくれたのは、綺麗なお姉さんだった。キラキラした銀色の髪で緑色の目なの。お顔も綺麗だけど、周りがお月様色だ。
まだしゃっくりする僕の背中をポンポンと叩く。水で冷たくなった僕は、温かいお姉さんの腕に安心した。少ししたら、しゃっくりも消える。もう一度ありがとうを伝え、そこで気づいた。
お姉さんがびしょ濡れになってる。暴れてる僕を助けたから? それとも、濡れた僕を抱っこしたからかも。
「あの……ごめん、なちゃい」
「濡れたこと? 気にしないで。私は水竜だから、冷たいのも濡れるのも平気なの」
すいりゅう? きょとんとした僕に、お姉さんは優しく教えてくれる。優しい人だ。お水が平気なドラゴンなんだよ。高そうなドレスなのに、濡れても怒らなかった。
「僕、ルンだよ」
「噂のルン様ね。私はディアボロスの婚約者で、イオフィエルというの。フィルでいいわ」
お母様みたいな話し方だな。ぎゅっと抱きつくと、柔らかなお胸はお母さんより大きかった。
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