39.いっぱい謝ったからいいよ

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39.いっぱい謝ったからいいよ

 お顔が青いけど、呼んだらすぐ来てくれた。お膝をついて、僕の高さに合わせる。優しいよね。にっこり笑ったら、なぜか泣きそうな顔になった。 「バラム、どっか痛いの? 僕が痛くないよ、って撫でてあげるね」  手を伸ばして触れたら、途端にすごい勢いで話し始めた。僕を置いて行ったと謝って、すぐ助けられなかったことを謝って……ずっと謝っている。撫でる手を止めないまま、僕はお話を聞いた。  お父さんが言ってたの。誰かがお話ししてる時は最後まで聞いてあげなさい、って。お話が止まったら、僕が口を開いていいんだよ。そうじゃないと、お母さんみたいに立派な人になれないよ、と教えられた。僕もそう思う。 「っ、ほんとうに……申し訳ありません」  ごめんなさいと申し訳ありませんは、同じ言葉だ。僕の両手よりたくさんの数、バラムは謝った。だから、僕は「いいよ」と答える。あんなに一生懸命ごめんなさいして、もし許されなかったら悲しいから。自分がされたら嫌なことを、誰かにしたらいけないの。  これはお母さんに教えてもらったんだよ。僕はいま一緒にいられないけど、それでもお約束や教えてもらったことを守る。驚いた顔をするバラムは、聞こえなかったのかな? 「いま……」 「いいよ。僕は怒ってない。バラムは花の籠を取りに行ったの。僕がお願いしたからだよ。落ちたのは、僕がダメなことしたからね」  大人しく待っていて、バラムに取ってと頼めばいい。なのに待てなかったのは僕が悪いんだ。お父さんやお母さんだけじゃなくて、ディー達も同じこと言うと思うよ。待っていてくださいねって、ちゃんとバラムは言ってくれたもん。  守れなくて危ないことしたのは、僕がいけないの。ぽつぽつと話すのを、バラムは黙って聞いていた。僕と同じで、最後まで聞くのは嬉しい。最後ににっこり笑って「ごめんね」と付け足した。  たくさん心配させた。それに泣きそうだったから、誰かに怒られたのかも。僕がその人にごめんねするから、バラムは気にしなくていいよ。一度止めちゃった手を動かすと、なぜかほっぺをくっ付けてきた。  撫でる場所、頭よりほっぺがいいのかな。両手を伸ばして、両方のほっぺをたくさん撫でた。片方だけだと寂しいからね。僕は両方撫でてほしい。人に嫌なことをしないけど、嬉しいことはしてもいいはず。 「はぁ……心が広いのね、ルン。私の方が見習わないといけないみたい」  フィルがそう言って笑い、乾いた僕の髪を手で触れる。何度も動かす手が、ブラシみたいに髪を直した。不思議、僕も覚えよう。頭の上を撫でるんじゃなくて、中に入れて動かすのかな。  バラムはもう泣きそうじゃなくて、優しいいつもの顔になっていた。痛かったのはお腹じゃなくて、胸の奥の方かも。僕もここが痛いと泣きそうになる。治ってよかった。 「一生、お仕えします」  いっしょにお使い? どこかへお使いに行くみたい。楽しみだな。にこにこしながら「お願いします」とご挨拶した。上手に言えたよ。
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