43.早く着きすぎた ***SIDE竜王

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43.早く着きすぎた ***SIDE竜王

 夜通し飛んで、ようやく着陸した。大木の根元で荷物を滑らせ、大切な幼子を椅子ごと下ろす。ぐっすり眠っているようだ。椅子に魔法を掛けてあり、落ちないよう保護している。  万が一があっても、椅子自体が安全装置になっていた。落下しても椅子に座るルンの手足は守られる。竜族でもまだ飛べる年齢には遠く、魔族との混血ならば飛べる年齢は遅い可能性があった。絶対に傷つけないよう、様々な竜種が集まって複合魔法を掛けてある。  するりとドラゴンから人へ戻り、空を見上げた。まだ夜明けは遠い。起こしてしまうが、シャムシエルを呼ぶしかないな。土産物をこのままにすれば、獣の餌になってしまう。  椅子に付けた手綱に似た紐を握ったまま、ルンの首がゆらゆらと揺れる。愛らしいが、首を痛めそうで手を伸ばした。だが支える前に、がくんと後ろに折れる。 「ルン?!」  声を抑えるのも忘れ、叫ぶように名を呼んだ。ううん……とむずがる仕草を見せたが、ルンはまだ眠っている。ホッとしながら、首を支えて抱き上げた。 「子煩悩な父親のようだぞ」  からかう口調で、シャムシエルが降りてくる。蔦を利用し、あっという間に目の前に現れた。正直、森の中で戦ったら森人族と呼ばれる彼らに勝てる気がしない。ドラゴンであっても、四方八方から突然攻撃を浴びせられたら、お手上げだった。  友好関係を築く友人は、土産に丁寧な感謝を述べた。いつものことだが、恩や挨拶に関しては律儀だ。嘘を吐かないところも、非常に気に入っている。息をするように嘘を吐く種族が、魔族や魔獣族には多かった。  欺くのも戦略の一つと言われたら受け入れるが、やはり気分の良いものではない。竜族も嘘を嫌う傾向が強かった。強者は弱者に嘘をつく必要がない、という考えが根底にある。  種族ごとに特性が違うのは理解するが、外交に疲れた俺は嘘のない森人族と友好関係を結んだ。今もあの日の決断は、英断だと思っている。 「夜中にすまない。早く着きすぎたようだ。荷物を運んでくれるか」 「もちろんだ。我が友よ、来訪を歓迎する」  抱き上げたルンは腕の中で、すやすやと眠る。声をひそめたわけでもなく、普通に話しているのに起きなかった。 「大物だな」 「まあ、魔王陛下のご子息だからな」 「ほぅ……」  興味深いと示しながらも、シャムシエルの眼差しは温かい。王の子が、次の王になるとは限らない。これは魔族に限らず、言えることだった。そのため、現時点でルンは魔王と先代竜王の子だ。 「大樹が喜んでいる」  ざわりと葉が揺れる。風もないのに、枝が動いて葉を散らした。見上げるシャムシエルの金色の目は、夜でも遠くまで見通す。ドラゴンより視力のいい彼は、何かを感じ取ったのか。目を細めて笑った。 「改めて歓迎しよう」  珍しいな。二度も繰り返すとは……初めてじゃないか? 理由を尋ねる前に、大きな欠伸が出た。だめだ、眠くなってきた。 「先に家で寝ていろ。布団は用意してある。土産を回収したら行く」 「ああ、悪い。先に寝てる」  もう一度欠伸をして、ふわりと浮いた。一番上の家に到着すると、無人の室内に敷かれた布団に座る。先にルンを布団に入れ、隣に転がった。布団に入るまで待てず、意識が落ちた。やはり夜の飛行は疲れるな。
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