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44.大樹は幼子を祝福する
「ああ、いたいた」
食堂から出たところで、ディーが追いかけてきた。僕に頬を寄せて、すりすりする。それからおはようをして、ほっぺにチューをした。
「ディーのご飯は?」
「もう食べ終わったのか? じゃあ、後だな」
「ダメだよ。お腹空くと悲しくなるから、ダメ」
お父さんとお母さんのところから連れて行かれて、人間がいる場所に閉じ込められた。ご飯がもらえなくて、お腹が空いて泣いたの。
「泣いたのか?」
「ちょっとだよ、このくらい」
指で、ほんのちょっとを小さく作る。わかったと神妙な顔で頷くディーに、僕は大きく頷いた。僕はがんばれて我慢できる子だけど、それでも泣いちゃうくらい辛いの。
「ご飯食べて」
「わかった。ルンが食べさせてくれ」
僕、そのお仕事知ってる。かんしやく! アガリがよくディーのお仕事を見張るのと同じだ。変な顔をしたけど、そうだなって頷いてくれた。
もう一度ご飯のお家で座り、ディーの口へパンを運ぶ。ちぎらなくても、牙があるから食べられるんだよ。僕の手も食べちゃいそうな勢いで、ディーはご飯を食べた。やっぱり、すごくお腹が空いてたんだと思う。
笑いながら見ていたシエルに、お嫁さんのところへ行くよと誘われた。嬉しいから一緒に行く。赤ちゃんとディーは初めて会うんだよね。
お嫁さんは、眠ってるけれどと包みを見せた。赤ちゃんの目は閉じていて、ゆっくり胸が動く。時々手の先がぴくりとした。すごく小さい手なのに、爪も皺もあるのが不思議。僕の手をそのまま小さくした形だった。
赤ちゃんの邪魔をしないように、お話はしない。お嫁さんにバイバイしてお家の外へ出たら、やっとお話ができる。
「可愛いんだよ。あのね、目がシエルと同じ色なの」
「ああ、森人族は全員同じ色なんだ」
なんだ、僕が最初に見つけたと思ったのに。知ってたのか。がっかりしたけど、教えてくれてありがとうとディーは微笑む。また何か気づいたら教えてくれ、って。僕のお話を聞くのが楽しいと言ったんだ。
だからシエルのお家に戻るまで、小さなお手手の話をした。小さくてそっくりで、不思議なの。ディーはうんうんと何度も返事をしながら、僕の話を笑顔で聞く。嬉しいな。
シエルのお家にお嫁さんが帰ってくるのは、赤ちゃんがもう少し大きくなってから。まだ移動が大変だから、お腹の大きな人達のお家にいる。寂しくないのと聞いたら、毎日会えるから大丈夫と返された。
同じお家じゃなくて、別々に寝たら、僕は寂しくなっちゃう。もう大きいから泣かないけど。
「名前はどうするんだ?」
「大樹が決めてくださる」
たいじゅさん? 偉い人なのかな。まだ会ったことないけど、素敵な名前を考えてくれますように。お願いしたら、屋根の上に葉っぱが落ちる音がした。枝もゆらゆらしたかも?
「ルンは気に入られたな」
「誰に?」
聞いても二人は笑うだけで、教えてくれないの。意地悪しないでね。
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