45.白くて赤い花をもらった

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45.白くて赤い花をもらった

 大きな木に花が咲いた! シエルが教えてくれたので、ディーの抱っこで見にいく。綺麗な白いお花だった。真ん中がちょんと赤いの。 「綺麗だね」 「見事だ、滅多にみられないんだぞ」  ディーのお話では、数年に一度しか咲かないんだって。お庭のお花はいっぱい咲くけど、全然違うみたい。近くに寄った僕が枝に触れると、花がぽろりと落ちた。慌てて手で掴んだけど、元に戻らない。  何度も元の位置に置いて、落ちるのをみて悲しくなった。僕が触ろうとしたから、落ちちゃったのかも。鼻を啜ってごめんなさいと木に謝った。ざわざわと木の枝が揺れて、お返事みたい。なんて言ってるのかな。 「花を賜ったのか。運がいい。その花は枯れないから大切に保管するといい」  追いついたシエルは、僕を怒らなかった。それどころか、木がくれたと話す。そうなの? 小首を傾げて尋ねると、葉っぱが揺れた。風がないのに揺れるのは、お返事かも。全然内容はわからないけど、怒ってるんじゃなさそう。  僕の頭の上で小さな枝が揺れて、頭を撫でてもらった感じだ。ありがとうとお礼を言った。たくさんの時間をかけて咲かせたお花を、僕にプレゼントしてくれる。大きな木が優しくて嬉しい。  お花はとても綺麗で、枯れないなら宝箱に入れられる。お部屋に帰ったら、綺麗な箱にしまおう。持って帰る時に潰さないよう、何か入れ物を……。 「あっ! お嫁さんのお花!」  せっかく前の日に摘んだのに。もう萎れちゃったかもしれない。慌ててディーに尋ねたら、お花は大丈夫だって。みてないのに平気なの? お花にお水もあげてないよ。 「この大樹の枝の下では、すべての植物は枯れない」  この大きな枝が影を作る場所は、すべて枯れない。言われた内容を繰り返して、考えてみる。お家に入れた花籠の中身は、お花で。お家は枝の下にあるから枯れない? 「そうだ」  シエルもディーも頷いた。安心した。あとでお嫁さんに持って行こう。花籠のお花を渡したら、籠を使わせてもらうの。お家に帰るまで、この白と赤のお花が潰れないように守るんだ。説明したら、そうだなと笑う。  ディーの抱っこで空を飛んでお部屋に戻り、一緒に花籠を覗き込んだ。本当に大丈夫だ。摘んだ時みたいに綺麗に咲いている。籠を持って、お嫁さんのいる枝に降りた。ディーも蔓で移動できるんだね。  枝の隙間を飛ぶ時は、羽がぶつかるから危ないんだ。僕はちゃんと覚えた。お嫁さんのお家に入り、そっと小さな声で話しかける。もし赤ちゃんが寝ていたら、起こしちゃうから。ディーに教わったんだよ。 「平気よ、起きているわ」 「失礼する」  ディーがカーテンの奥へ僕を入れた。でも入ってこない。振り返って首を傾けたら、シエルがいないからダメなんだって。慌てて僕も戻ろうとする。だっていけないんだよね? 「ルンは子供だから平気だ」 「もう大人だもん! あとちょっとなんだからね」  子供じゃないよ。そう伝えたら、ルンは特別だから入ってもいいと言い直された。そこへシエルが追いついて、一緒に中に入る。シエルがいないと、大人の男の人は入ったらダメ。不思議なルールだね。ちゃんと覚えておこう。
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