51.亀さんが小さくなった

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51.亀さんが小さくなった

 僕はアガリに掴まって浮く。足を動かして、手をばたばたしたら、前に進んだ。これが泳ぐ、なの? 「泳ぎ方は浅い場所で教えましょう。ほら、ゲンブ殿が泳いできますよ」  アガリに促されて振り返った僕は、亀さんが見つけられなかった。お名前はゲンブさんみたい。きょろきょろする僕の下に、やや大きな亀がいる。これ、あの亀さん? かなり小さくなっちゃった。 「この亀さんが、洞窟の亀さん?」 「そうです。あの洞窟の出入り口も、小さくならないと通れませんから」  言われて考えてみる。洞窟の入り口は小さくて、大きな亀さんは通れない。甲羅は硬いから、無理だよね。でもどうやって小さくなるんだろう。 「亀さんは小さくなれるの?」 「普通の亀は小さくなりません。成長すると大きくなるだけです」  ゲンブさんは特別な亀さんだった。小さくなれるから、洞窟を出たり入ったりする。ここまでわかっていればいいや。もっと大人になったら、詳しく教えてもらうの。 「うわぁ」  亀さんが下から僕を押し上げる。甲羅に乗った状態になって、アガリと目をぱちくりした。両手で甲羅に手をついて、うわぁともう一度声を上げた。亀さん、ばたばたしないのに沈まない。僕を乗せても平気なんて凄いや。 「ゲンブ殿、助かります」  アガリがお礼を言ったので、僕もありがとうと伝えた。首を伸ばしたから、そっと触れる。撫でていいのかな。嬉しそうにするから、いっぱい撫でた。さっきは大きくて届かなかったけど、今は僕が甲羅に座ってるから届く。 「ゲンブさん、ってお名前なの?」 「そうじゃ」  小さくなっても話せるんだ! ぺたりと甲羅に張り付いて、頭にほっぺを寄せた。やっぱり冷たくてドラゴンの背中に似ている。でも鱗はない。手で撫でると、表面が動いた。 「鱗はないの?」 「ないな」  やっぱりドラゴンとは違うんだ。僕が知らない種族の人はいっぱいいる。これから、お友達になれたら嬉しいな。甲羅を撫でながら、寝そべってそんな話をした。  上からお日様の光が注いで、下は甲羅のひんやりがあって。だんだんと甲羅も温かくなってくる。滝の下から離れて、川になっている浅い部分へ下ろしてもらった。  泳ぎ方をアガリから教わる。亀さんは泳いだり、魚を捕まえたり、自由にしていた。時々、僕のお尻をつついてくる。泳ぎ方がおかしくなると、ぽんぽんとされた。 「もう上がりましょう」 「どうして?」 「唇が青くなっていますよ」  自分では見えないけど、唇を尖らせてみた。上を向けたら見えるかも。頑張っていたら、アガリが大笑いする。川から出たところで、鏡を貸してくれた。  本当だ、青と紫になってる。外へ出ると、途端に寒く感じた。 「すっかり冷えてしまいましたね。ゲンブ殿も上がってくるので、こっちへ」  川の浅い部分へ上がった亀さんは、捕まえたお魚を並べた。大きくて鱗が黒いお魚だ。 「せっかくですから、焼いて食べる準備をします」  アガリは火をつけて、僕を近くに座らせた。火が温かくて、お日様で背中も温かくて。うとうとしながら、火を見ていた。
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