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53.総攻撃 ***SIDE竜王
ルンが出かけている間に、片付けなければならない。俺は同族のみならず、魔族にも広く声をかけた。
集まった種族は驚くほど多い。魔王であるルンの母アスモデウスの人徳だろう。竜族は大きく分けて三種しかいない。陸と海と空に分類された。だが魔族の分類はその比ではない。亜種まで数えれば、数百と言われる種族が確認されていた。
種族の特性が違い過ぎて纏まらない魔族を、すべて平伏させた初の魔王と呼ばれるのがアスモデウスだ。他種族にも彼女の功績は伝わっていた。普段は穏やかで、笑みを浮かべる美しい女性だ。怒らせると世界を滅ぼすほど、圧倒的な強さを誇る。
かの女王が、我が子を盾にとられて倒れた。先代竜王を巻き込んで、封印状態にある。その話は魔族にあっという間に広がり、思わぬ効果をもたらした。彼女の地位を狙う者はほとんどなく、魔王へ刃向かった人間への制裁を叫んだのだ。
魔族を侮る人間に報復を。俺のあげた声に、魔族が軍を形成して参加した。先代王に世話になった者を中心に、竜族も集まる。人間を滅ぼす強大な戦力だが、これでも希望者を選抜し、参加者を削っていた。
見渡す限り、魔族とドラゴンが埋め尽くす。ざっと数千だろうか。人間と戦うのに不足ない数に抑えた。狡猾な種族である人間は、過去の大遠征で裏に回り込む作戦をとった。少人数で魔族の村を襲ったのだ。後方に残った者は戦う能力を持たず、虐殺された。あの悲劇を防ぐため、常に戦力の半数は残すルールができた。
「では行こうか」
俺が命じるのは竜族のみ。魔族は吸血種の長ヴラドが率いる。人間は放っておけば数を増やし、大地を覆い尽くす。森を切り開き、海を荒らし、大地を疲弊させる害虫のような種族だった。一定の頻度で狩ってきたが、今回はその狩りを早めた。
魔王に危害を加え、幼子を攫って殺しかけた事件は、歴史に残る暴挙だ。彼らは自ら死を招き寄せた。愚かな行為の報いを受けさせるのは、残った俺達の仕事だろう。魔王が目覚めた時、不満を漏らすかもしれないが……。数十年後の話を今から心配する必要はなかった。
飛べる種族は羽を広げ、魔力で浮き上がる。ドラゴンの背は、飛べない種族を運ぶ。人間の領域は、勝手にこちらへ侵食していた。その境界線を押し戻すのは、強者たる人外の役割だ。
「出撃する!」
大地を走る種族もいた。先行する形で森を駆けるのは、獣型が多い。森人族など、人に近い形をした種族はドラゴンの背で飛んだ。今回、愚かな行為をしでかした国は一つ。だがその国を滅ぼしたところで止まる気はない。
魔族と竜族の見解は一致していた。二度とこちらの領域へ手を伸ばさぬよう、海まで押し戻してやろう。にやりと笑った俺は、ルンを想う。あの子は今頃、何も知らずに楽しんでいるはず。それでいい。手を汚すには幼過ぎた。
苦しくて痛くて怖い思いをしたと語ったルンの復讐は、俺が背負う。誰にも渡さないと心に決め、赤い鱗を青い空に閃かせた。
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