57.寝たフリはちょっとだけ

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57.寝たフリはちょっとだけ

 猫さんとお魚も獲りに行った。ひょいっと前の手を動かすと、お魚が石で跳ねているの。爪で引っかけると教えてもらったけど、僕はそんなに立派な爪がない。だから獲れたお魚を捕まえる役をした。  これも立派なお仕事だよ。猫さんと僕が捕まえたお魚を、アガリが運んでくれた。丸ごとのお魚を焼いて食べたり、お鍋に入れて煮る。たくさん食べて、お肉のお土産ももらった。 「魔力で包んで放り込みます」  お土産を空中へ入れる様子を見て、僕はアガリにやり方を聞いた。もしかしたら僕も出来るかもしれない。覚えて、お父さんやお母さんに自慢するの。そう話したら、丁寧に説明してくれた。  魔力を練って、包んだ品物を放り込む。魔力ってどんなので、練るって何をするの? 首を傾げる僕に、猫さんが鼻をくっつけた。触れたほっぺからじわじわと温かいのが伝わる。 「あったかい」 「今のが魔力だ。探してご覧」  じんわりする、温かいのが魔力。僕の中にもあるなら、探してみよう。手足をぺたぺた触って、外側にはないと気づいた。内側? お腹かな、胸かも。目を閉じて探すと、じわっと何かが出てきた。  僕も出来そう。そう思った途端に消えちゃった。慌ててまた探し、胸の奥の方で見つける。おいでと呼んで、優しく誘ったら、じわじわと出てきた。あったかいし、安心できる。 「見つかったかい?」  尋ねる猫さんに、これ! と手を当てて伝えた。僕が送ってもらった魔力と同じだと思うよ。猫さんのお顔に手を当てて、ゆっくりと流した。 「おお、見事なこと。さすがは魔王陛下のご子息よなぁ」 「ごちそく?」  難しい言葉だ。まおーへーかは知ってる。お母さんのことだった。お仕事用のお名前なんだよ。 「愛い子だ」  うい? 聞いたことがない難しい言葉が多いけど、猫さんは長生きなんだ。だからいっぱい言葉を知っている。僕もちゃんと覚えなくちゃ。聞いて同じように繰り返すのに、全然違う言葉になっちゃうの。どうしてだろう。  アガリに相談したら、まだ出来なくていいと言われた。大人になるに従って、できるようになる。  猫さんとお昼寝もして、すぐに一日が終わっちゃう。今夜はアガリも一緒に猫さんのお腹で寝るの。一人は寂しいから、一緒がいいよね。僕を抱っこしたアガリが猫さんのお腹に包まれて、でもお布団も敷いて。あったかく眠った。 「まだどこぞへ寄るのかい?」 「そろそろ連絡が来ると思います」  連絡次第ですね。アガリが猫さんに答える。僕は目を閉じてるけど、まだ起きていた。お話は全部聞こえる。僕が寝たと思って話しているから、黙って寝たフリだよ。 「ならば、明日は面白い場所に連れて行ってやろう。運が良ければ、契約が得られるか」  ちらっと目を開けたら、起きているのがバレちゃった。謝ったけど、別にいいんだって。面白い場所って、どこかな。ワクワクしながら、もう一度目を閉じる。今度はすぐに眠くなった。  夢の中でディーが飛んでいる。真っ赤な羽を広げて、鱗がきらきらと輝いた。隣に大きな蝙蝠の人がいて、周りにもいっぱいドラゴンがいる。赤、青、銀、黄色、茶色……緑の髪はシエルと同じ大樹さんの人みたい。目が覚めたら、夢の中身は思い出せなかった。今度はちゃんと覚えておこう。
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