58.猫さんを舐めるのはダメ

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58.猫さんを舐めるのはダメ

「食べ終わったら、帰りましょうか。兄さんが寂しいそうです」 「うん? いいよ」  亀さんに会ったし、猫さんとも遊んだ。片方だと思ってたから、二人も会えて嬉しかったの。ディーが寂しいって連絡してきたなら、僕、帰って抱っこするよ。  いつもはディーが抱っこしてくれるけど、僕から抱きついたら喜ぶかな。アガリは大きく頷いたあと、羨ましいですねと言った。だから、アガリに抱っこの手を伸ばす。ふわりと抱き上げられて、嬉しいからぎゅっと背中まで手を伸ばして抱っこした。  やっぱり手が届かない。アガリやディーが同じことすると、僕の背中を通り越して両手が握手できるのに。僕はまだ腕が届かなかった。でもいいの。今できることを頑張るんだよ。 「羨ましいのぉ」  猫さんが頬を擦り寄せるから、この次ねと約束した。小さな約束はすぐ叶うけど、大きな約束は後で叶える。両方大事だよね。アガリがそっと地面に降ろしたので、僕は猫さんの首に抱きついた。もふっと体が埋もれちゃう。  柔らかくて温かくて、いい匂いのする毛皮が大好き。優しく遊んでくれる猫さんも好き。両手を目一杯伸ばして、大好きを伝えた。猫さんはザラザラの舌で僕を舐める。お礼に僕も舐めたら、口の中がイガイガになった。 「あはひぃ……」 「これで口を濯いで」  用意されたコップのお水を口に入れて、ぺっと吐き出す。何回か繰り返したら、治った。安心した僕は、こっそり笑っていた猫さんのお尻を叩く。ぺちぺちと叩いたら、尻尾が揺れた。 「笑わないで!」 「すまぬ、詫びにこれをやろう」  綺麗な石を渡された。猫さんの目みたいに、縦に光が入っている石だ。嬉しいから、お礼を言ったらまた舐められた。でももう舐め返さないよ。代わりに手を伸ばして、首や顔を撫でた。  朝のご飯はパンで、お昼はお鍋。たっぷり煮て、猫さんも一緒に食べた。僕とアガリが器に入れたスープの残りを、お鍋から直接食べちゃったんだ。驚いたけど、猫さんは大きいからね。  お腹いっぱいになって、猫さんに手を振って帰る。アガリの抱っこで空を飛んでいると、気持ちよくて眠くなってきた。いつもならお昼寝の時間だ。 「寝ていていいですよ」  アガリはそう言うけど、飛んでいる風景も見たい。頑張って目を開けていたけど、途中から景色を覚えていなかった。子供だから寝ちゃうのかな。 「起きたか? おかえり、ルン」 「ただぃま、ディー。おかえり」 「ああ、ただいま」  ディーのお膝で起きて、両手を上にあげて体を伸ばす。お部屋はディーのお部屋で、アガリとフィルもいた。きょろきょろしたけど、バラムがいない。 「ディー、バラムは?」 「扉の外だ」  お仕事してるんだ。邪魔しないように、あとで「ただいま」するね。 「楽しかったかしら? ルン、おかえりなさい」 「フィルもただいま!」  ご挨拶して、旅のお話をした。亀さんと猫さんのこと、低く飛んだ風景のこと、それから新しい約束や泳げた話も。嬉しそうに聞くディーに何してたのか聞いたら、唸っちゃった。難しいお仕事してたみたい。
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