60.殲滅の大攻勢 ***SIDEバラム

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60.殲滅の大攻勢 ***SIDEバラム

 久しぶりの大攻勢は、予定通りの結果をもたらした。人間にドラゴンが負けるはずない。魔族も同じだった。強者が手を組んだ結果、最弱の人間は滅亡寸前まで追い込まれる。  哀れと思うより、奴らの鬼畜の所業に眉を寄せた。出撃前に聞いた話は、誰もが腹を立て(いきどお)った。  魔族の頂点に立つ強者、魔王はルン様の母君だ。その話は聞いて知っていた。人間に我が子を奪われた事情は、当事者のお二人が封印中なので不明だ。何らかの理由で人質に取られ、起死回生の一手を放つ前に進化の封印に見舞われた。  推測するしかないが、我が子を取り戻せていない状況で、どれだけ無念だっただろう。歯痒くて、進化など無視して追いたかったのではないか。俺の目の前でルン様が連れ去られたら、命懸けで敵に爪を突き立てる。  それが親なら尚更だ。幼い我が子が連れ去られる様を、動けずに見守ったとしたら。悔しくて悲しくて、心が崩壊する。それほどの苦行を、魔王陛下と先代様に強いた。その事実だけで、種族全ての命を投げ打っても足りない。  以前、狡猾な人間に裏を掻かれ、戦えない者が犠牲になった事件は、教訓として竜族に伝わっていた。同じように魔族も話を語り継いで、風化させない。そのため戦える者を半分残した。居残り組に託された分も、攻撃部隊は背負って戦う。  魔王陛下に弓引いた愚か者らを殲滅せよ。前竜王陛下に逆らうアリ共を許すな。  足元を逃げ惑う親子は、互いを庇うようにして息絶える。その姿を哀れと思う気持ちはあった。同時に、当然の報いと断じる感情も存在する。王を選ぶ権利はなくとも、支持した責任は生じた。王が愚かな言動をすれば、民が決起する。  人間は寿命が短く、すぐ忘れる。だが、長寿の種族は知っていた。過去の人間は、王政をひっくり返したことがある。一回ではなく、何回も。監視する義務を怠り、漫然と日常を生きるなら罰が伴う。  彼らはそれを理解するべきだった。思い切り吸い込んだ息に、冷気を纏わせる。鋭い針に変化した氷が、人間の足を止め 背を貫いた。血の臭いが充満する都の掃討戦は、魔獣達の役割だ。ある程度片付け、建物を壊して追い立てたら、ドラゴンの分担は終わりだった。  次の国がある。全部で三つの国を崩壊させ、人間を海岸付近まで押しやる計画だった。奴らは放っておくと、カビのように繁殖する。魔族や竜族、魔獣が管理する森を荒らし、切り開いて住み着く。害虫も同然だった。  飛んでくる弓矢を、隣のドラゴンが焼き払う。炎を得意とする友人に、軽く合図をして方向を変えた。鱗が厚く攻撃が通らない竜族が壊し、魔族が蹂躙する。最後に魔獣が満遍なく人間を処分する。この方法は安全性と犠牲の少なさ、何より各種族の特性を利用していた。  魔王陛下や先代様が目覚めた時、綺麗な世界で迎えたい。その思いは誰もが共通だった。一人息子のルン様のお幸せも、そこに華を添えるだろう。  あと一つ、明日の夜までに大攻勢を終わらせる。ルン様がお帰りになる予定に合わせ、俺達は攻撃の速度を上げた。
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