61.留守を守ってあげる ***SIDEフィル

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61.留守を守ってあげる ***SIDEフィル

 水竜は火竜より防衛力が高い。故に、今回は屋敷の守りとして残ることにした。  可愛いルンを泣かせ、ご両親を苦しめた人間を処分するのだから、討ち漏らしは許さない。ディアボロスにきつくいい含め、常駐する軍の半分を見送った。残りは各地に散って、魔族や竜族の集落を守る予定と聞いている。 「アガリアレプトは、上手にやっているかしら」 「問題ないと思われます。お嬢様、待機中はこちらを」  侍女が用意したのは、騎士服に似た衣装だった。軍の一角を担う私の正装だ。面倒だけれど、ここは着替えるべきね。着ていたワンピースを脱いで、きっちり襟を留めた。自然と背筋が伸びる。  ドラゴンは大きく分けて三つ、陸と空と水。火竜が竜王に就くことが多い理由は、陸を支配する彼らの数だった。どうしたって多数決になれば、数の多い種族が有利だ。それ以外にも戦うことで、竜王の地位を奪うことが可能になる。  先代竜王陛下は火竜だが、さらに一代遡ると水竜が王だった。私の父フルカスである。その跡を継いで、倒すつもりだったディアボロスに惚れてしまった。だから彼と戦う道を捨て、妻になる未来を選んだ。そのことに後悔したことはないけれど。 「私も出撃したかったわ」  ちょっとだけ不満なのよ。ルンが戻る家を守ってくれ、その信頼は嬉しい。だけれど、今回の戦いを逃したら、次の機会は数百年訪れないだろう。非常に残念だと嘆く私に、侍女達はくすくすと笑うばかり。  まあいいわ。もし先発隊のミスが発覚すれば、私が次の指揮を取る。それだけの実力も配下も持っているのだから。失敗したら覚悟なさい!  ふふんと空に向けて笑い、私はディアボロスの部屋に戻った。まず、ルンが帰ってきた後の準備をしなくちゃ。肌触りのいいシーツと寝着の用意をして、美味しいお菓子を作らなくては。  あの子の部屋に新しい玩具も必要だし、クッションを新調しよう。大急ぎで手配しないと間に合わないわ。 「あなた達も手伝ってちょうだい。急がないと間に合わないわ」 「もちろんです」 「でも……ふふっ」  なぜか侍女達は私を見て、嬉しそうに笑う。首を傾げて理由を問えば、思わぬ返答があった。私とディアボロスが結婚したら、可愛い卵を産んで孵すことになる。その子が生まれたら、きっと今のようだろう、と。  ルンで予行演習しているように見えるのかしら。あんな可愛い子が生まれたら、それこそ夢中になってしまうわね。自然と頬が緩んで、立て直そうとするのに崩れる。両手で頬を包んで、赤くなった顔を隠した。 「お菓子でしたね。私が手配いたします」 「では、シーツは私が交換いたしましょう」 「玩具の追加はすでに準備しております」  彼女らが職務に戻っても、私は赤くなった顔が恥ずかしくて頷くだけ。私達の子が生まれて、ルンと手を繋いで遊ぶ姿まで想像してしまい……恥ずかしさに、しばらく動けなかった。
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