62.カッコよくなりたい

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62.カッコよくなりたい

「僕、カッコよくなりたいの」  お仕事の机にいるディーに声をかける。いつもなら終わるまで待つけど、今日はお願いにきた。バラムは騎士で火竜で強いんだって。強くなる方法を教えてもらおうとしたら、ディーの許可がいると言われた。  許可を頂戴! 机の前に立ってお願いする。訓練してもいいよと言ってほしい。もう一度お話ししたら、眉の間にきゅっと皺が出来た。ディーの机を回り込んで、お膝を叩く。すぐに膝に乗せてもらい、皺を両手で伸ばした。 「ダメ?」 「……っ、少しずつ、危なくないように訓練を始めていい」  こてりと首を傾げた僕に、ディーは悩んで唸った。でもいいよが出た。ありがとうとお礼を言って、また出来た皺を伸ばす。ほっぺにチューしてもらったので、僕もチューを返した。  するすると滑り降りて、ディーに手を振る。お願いは終わったから、お仕事の邪魔も終わりだよ。扉の前で待っていたバラムに、笑顔で手を伸ばした。 「ディーが、いいよって言ったから、頑張るね」 「ええ、少しずつ始めましょう」  今までは素振りの練習だったけど、違うのも教えてもらおう。手のひらもちょっと硬くなったの。 「本当にご立派です。すぐに強くなって、カッコよくなりますよ」  バラムは戦い方の先生をしてくれる。僕のお父さんがドラゴンだから、竜になる練習も始めることにした。両親の片方がドラゴンなら、変身ができるの。僕も出来るはず。  体の中の温かいのを動かして、全身に満たす。満たす部分がよく分からない。全部に広がればいいのかな。練習するけど、途中で温かいのが消えちゃう。小さくなるんじゃなくて、バラバラになる感じ。  鼻を啜って唇を尖らせながら、何度も繰り返した。バラムもすごく練習して出来るようになったの。そう聞いたから、僕もいっぱい練習する。お昼寝もおやつも我慢して練習したけど、今日は出来なかった。  がっかりしてお部屋に戻ると、フィルが抱きしめてくれる。温かくて、柔らかくて、いい匂いがした。お母さんみたい。 「僕、上手にできなかった」 「あら、もう諦めちゃうの?」 「ううん、がんばる」 「偉いわ、その覚悟がカッコいいわよ」  頑張った分だけ、カッコよくなれたのかな。明日も頑張ろう。棒を振る素振りも、いっぱいやったら上手になった。きっと、たくさん練習したらドラゴンになれる。お父さんの子だもん。途中で諦めたりしないよ。  お父さんは何度もお母さんに振られて、でも諦めないで口説いたと言ってた。意味は半分もわからないけど、僕が生まれたのは諦めなかったからだよね。お父さんみたいに強くなりたいから。  ぐぅ……抱っこされた僕のお腹が、もう限界と悲鳴をあげる。おやつ食べなかったから、お腹空いた。両手で抱えて撫でたら、フィルが僕を抱き上げた。 「ご飯にしましょう。ディアボロスとアガリアレプトを呼ぶわ」  もうお仕事終わった? ディーとアガリはすぐに来てくれて、皆で食堂へ行った。山盛りに用意されたご飯を、口に運んでもらう。いつもよりたくさん食べられたから、すぐ強くなるはず。僕の知っている強い人は、皆、たくさん食べる人ばかりだもん。僕も仲間入りしたい。
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