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01.誰か僕を助けて
優しくて厳しいお父さんと、綺麗で大好きなお母さん。ずっと一緒に暮らせると信じていた。幼い僕は疑うことも知らなくて、ただただ……毎日が幸せだったんだ。
「おら、ここに入ってろ」
放り込まれたのは、薄暗くてじめじめしたお部屋だ。窓はなくて暗い。隅っこで何かが動いてて、すごく怖かった。灯りが見える鉄格子に寄り掛かり、震えながら過ごす。左足には変な輪っかが付いて、その先は鉄格子へ繋がれた。
お腹が空いたけれど、何も持っていない。今の僕はみすぼらしい薄い服を着て、靴もなくて、体のあちこちが変な色で痛かった。ここは叩かれた場所、蹴られた場所、放り出された時に痛くなった場所。手で撫でても、痛い。
ぐすっと鼻を啜り、零れそうな涙を我慢した。泣くと殴られるの。騒ぐと蹴られるの。お腹も背中も手足も全部、もう痛くないところがない。だから我慢しないとダメ。
ぐぅと情けない音を立てるお腹を撫でて、体を小さく丸めた。少しだけ眠ろう。そう思うのに、怖い。だって、夢の中の僕は幸せなんだ。お父さんがいて、お母さんがいて、何もかも足りていた。あの頃と違う自分が嫌で、哀しくて、泣きたくなる。
お父さん、助けて。お母さん、会いたいよ。ぐずぐずと鼻を啜って目が覚めた。ほんの少し、ちょっとだけ寝ていたみたい。慌てて周囲を見回し、暗いお部屋の奥を確かめた。動いている小さな何かは、僕の方へ来ていない。ほっとして息を吐いた。
滲んだ涙を手で拭う。廊下なのかな、鉄格子の向こうは明るかった。この灯りもなかったら、怖くて叫んじゃったかも。殴られるとしても、その間は人がいて明るいと思うから。
あの後、お父さん達はどうしたんだろう。いま、僕のことを探しているのかな。それなら嬉しいな。早く助けてほしい。でもお父さん達が殴られたら困るから、僕が逃げた後に見つけてもらうのがいいかも。いろいろと考えながら、足音が聞こえて体を竦ませた。
びくりと揺れた肩を両手で抱き締める。背中の羽は傷つけられて、凄く痛かった。片方は千切られちゃったの。ずきずき痛む背中を隠すように壁に押し付けた。残った羽も傷だらけで、凄く痛いから触られたくない。
きゅっと唇を噛んで、負けないぞと睨みつけた。お父さんは強いし、お母さんも綺麗で素敵だ。だから絶対に僕を見つけてくれる。その時に、僕は負けなかったんだと胸を張りたいから。殴られても、もう泣かない。
ぎゅっと拳を握って見上げる先、さっき僕を蹴飛ばした人がいた。手にギラギラ光る痛い棒を持っている。あれは痛い、僕の羽を無理やり千切った時に、あれで叩かれた。びくりと肩が揺れる。
先ほどの決意が揺らいだ。泣きたくないのに、怖い。目の奥がジンと熱くなった。震える僕の前で鉄格子が空いて、男の人は舌打ちする。
「ったく、役立たずは処理しねえとな」
何を言われたのか、よく分からない。僕を役立たずって言ったの? 処理って何、また叩かれたり蹴られたりするのかな。見上げる先で、男の人は銀色を持ち上げた。
怖くて蹲り、必死で呼ぶ。お父さん、お母さん、誰でもいいから助けて!!
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