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63.訓練して食べて寝る
ご飯の間に教えてもらった。強い人はたくさん訓練して、いっぱい食べる。僕も真似しなくちゃ!
「ルン、そろそろ寝ないか?」
「あとちょっと」
ディーはさきに寝ていいよ。そう言ったのに、もう何回も同じこと言うんだ。今は訓練用の木の棒はないけど、あるつもりで「えいっ」と振り下ろす。お風呂入った後だと、なんだか暑いね。
「ルン、強くなるには大事なことがもう一つある」
「もうひとつ?」
「しっかり眠ることだ」
びっくりして目を見開く。寝ないと強くならないの?
「睡眠時間が足りないと、大きくなれないし強くならない」
「じゃあ、寝る」
ちょっとだけ、目の蓋が重かった。我慢してたけど、寝た方がいいならもう我慢しない。ディーの広げた腕に飛び込んで、一緒にベッドに入った。奥の寝室で横になった僕は、きちんと挨拶したのかな。覚えていない。
ぱっと目が覚めて、ディーがいないベッドを見回した。いつもはいるのに、どうしたんだろう。不思議に思ってベッドを降りる。寝るお部屋から隣のお部屋を覗くと、フィルがいた。
「あら、おそようさん」
不思議な挨拶をされて、首を傾げる。おはようは早い時、おそようは遅いわよって意味だって。そんなに遅いのかな? 窓から外を見たら、てっぺんにお日様があった。
「僕、訓練しなきゃ」
「ダメよ。先に着替えてご飯を食べるの」
「でも遅くなっちゃうよ」
焦る僕に、フィルは視線を合わせて座った。ぎゅっと抱き寄せるから、大人しく胸に顔を埋める。髪を撫でながら、大事なことを教えてくれた。
「訓練は毎日してもいいけれど、疲れてる日は休むの。体が悲鳴を上げるまで頑張っても、強くなれないわ。ちゃんと体と相談しましょうね」
「うん」
「それと食事と寝る時間を減らしたら、その分だけ強さが遠ざかるのよ。きちんと食べて、ちゃんと寝てこそ強くなれるわ」
「うん」
もしかして、僕……叱られてるのかも。いけないことしたみたい。
「強くなるための方法を教えるから、間違わないでね」
しっかり寝て、ちゃんと食べて、訓練は手を抜かない。面倒だったり嫌なことから逃げない。それと身だしなみがきちんとしていない人は、弱くてカッコ悪い。
ちゃんと覚えたよ。
「できるわね?」
「がんばる」
「なら、身だしなみを整えましょうね」
着替えをするんだね。頷いて、僕は両手を広げた。すぽんと脱がされ、羽織ったシャツのボタンを止めてもらう。ズボンを履いて、靴下も。訓練で外を走ると、足が汚れちゃうの。靴の中にも砂が入っちゃうんだ。だから靴下を履くんだよ。
「あとはご飯だけど……ちょうど、ディアボロス達もお昼の時間ね。一緒に食べましょう」
手を繋いで食堂へ向かった。お部屋の外にいるバラムに、ディーとアガリへの伝言を頼む。焦ると失敗する、そう言って笑うフィルも、すごく強いんだって。ドラゴンは綺麗な人も強い種族なのかも。僕も立派なドラゴンの子になって、カッコよくなろう。
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