つまらない彼

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つまらない彼

 トイレから戻るとテーブルに残っていたのは社内一と噂高いイケメン君ただ一人だった。 「嘘。他の人達は?」  女子たちは、皆この子目当てだったんじゃないの? と私は驚く。私の問いに、 「向こうの席です」 と、彼が視線を向けたテーブルは確かに賑わっていた。 「〇〇さん、話上手いもん。皆んなそっちへ行っちゃいましたよ」 「えぇ、意外……」 「別に。昔からモテるのは、話が面白いか足早いやつって決まってるし」  傷つき萎れきった顔で、イケメン君はビールをグビッと飲み干す。口に入りきらなかった液体が溢れ彼のシャツの前まで垂れた。あぁ、イケメンが残念なことに……。私はそこら辺にあったお手拭きで口周りを拭ってあげた。 「どうせ、貴女もあっちに行くんでしょ」 「いや、行かないけど」  もともと賑やかなの得意じゃないしね、と言ったら彼が目をキラキラさせた。実家で飼ってるタロの子犬時代を思い起こさせる邪気のない瞳の輝き。不覚にもドキッとしてしまった。すると、イケメン君が、逃がさないぞとばかりに私の手首をつかんでくる。 「じゃあ、聞いてくださいよっ」  お酒が入ったせいだろう、彼の手は熱かった。 「ウンウン、沢山聞くからね。お姉さんとお話しようね……」  彼の手をそうっとどけ話をうながす。彼とのおしゃべりは、想定以上につまらなかった。て言うかつまらな過ぎて、いっそのこと面白い。  この会話をキッカケに数年後、私は彼と結婚した。
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